裏車掌です。
昨年から本(ほぼ新書)を紹介する
ブログになっております。
今は、本の紹介記事は、
日曜日と木曜日の朝7時
更新となります。
他の曜日に
別の内容の記事も出す予定です。
よろしくお願いします。
はじめに:「時間を守れない」は本当に怠慢なのか?
「どうしていつも遅刻するの?」「なぜ締め切りを守れないの?」——職場や日常生活において、こうした疑問を抱いたことのある方は少なくないでしょう。
あるいは、ご自身が時間管理に苦しみ、「自分はだらしない人間だ」と自己嫌悪に陥った経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
本書『なぜあの人は時間を守れないのか』は、そうした「時間にルーズな人」の行動を、単なる意識の問題や怠慢として片付けるのではなく、心理学・神経心理学の視点から科学的に解き明かす一冊です。
著者の中島美鈴氏は、九州大学で研究を行う心理学博士であり、公認心理師として数多くの時間管理に関するカウンセリングや研修を手がけてこられました。
その豊富な臨床経験と学術的知見に基づき、時間を守れない行動の本質に迫ります。
第1章:「だらしない」という言葉で片付けてはいけない理由
本書の第1章では、私たちが「だらしない」と安易にラベリングしてしまいがちな行動について、その背景を丁寧に解説しています。
遅刻を繰り返す、いつもギリギリで行動する、締め切りを守れない——こうした行動は、一見すると本人の意識や努力の問題のように思えます。
しかし著者は、その背後には記憶力の問題、計画を立てる能力の偏り、時間感覚のズレといった心理的・神経心理学的な要因が潜んでいることを指摘します。
特に重要なのは、「できない」ことを「しない」と誤解してしまう構造の存在です。
周囲の人々は「やる気があればできるはず」と考えがちですが、実際には本人が懸命に努力しても困難な場合があるのです。
この誤解が、当事者を追い詰め、周囲との関係を悪化させる原因となっていることを、本章は明らかにしています。
第2章:人によって「5分」の長さは違う——時間心理学からの考察
第2章では、時間心理学という興味深い視点から、時間感覚の個人差について考察されています。
私たちは同じ「5分」という時間を共有しているように思いますが、実際にはその感じ方には大きな個人差があります。
ある人にとっての5分は「まだまだ余裕がある」と感じられ、別の人にとっては「あっという間に過ぎてしまう」ものかもしれません。
本章では特に、報酬への感受性と「時間割引」という概念が紹介されています。
これは、将来の報酬よりも目の前の報酬を優先してしまう傾向のことで、この傾向が強い人ほど、先の締め切りに向けて計画的に動くことが難しくなります。
また、ADHD(注意欠陥多動性障害)傾向のある方の脳の特性についても詳しく解説されています。
ADHDの特性を持つ方は「未来を感じづらい」傾向があり、これが時間管理の困難さと深く関連していることが、科学的な知見とともに示されています。
第3章:「動けない」のはなぜか——実行機能という視点
第3章では、「実行機能」という概念を軸に、なぜ「動けない」のかを探っていきます。
実行機能とは、目標を達成するために必要な一連の認知スキルを指します。
具体的には、計画を立てる、優先順位をつける、衝動を抑制する、注意を切り替える、ワーキングメモリを活用するといった能力が含まれます。
これらの機能は、時間管理において極めて重要な役割を果たしています。
本章では、実行機能がどのように発達していくのか、そのプロセスが詳述されています。
そして、発達特性として実行機能に偏りがある場合、それが「行動の遅れ」としてどのように現れるのかが解説されます。
重要なのは、実行機能の偏りは「努力不足」ではなく、脳の特性に起因するものだという点です。
この理解があってはじめて、適切な支援や対策を講じることが可能になります。
第4章:悪循環を断ち切る——考え方のクセと行動パターンの見直し
第4章では、時間管理を阻む「考え方のクセ」と「行動パターン」について分析されています。
時間管理に失敗し続けると、人は次第に自信を失い、「どうせまた失敗する」という否定的な思考パターンに陥りやすくなります。
この思考が行動を萎縮させ、さらなる失敗を招く——という悪循環が生まれてしまいます。
著者は、こうした悪循環を断ち切るためには、まず自分自身の考え方のクセを認識することが大切だと説きます。
「完璧にやらなければ」「まだ時間がある」「やる気が出たらやろう」といった思考パターンが、いかに時間管理を妨げているかを自覚することで、対策の糸口が見えてきます。
また、行動パターンの見直しについても具体的な方法が示されており、読者が実践できる形で提案されています。
第5章:上司・管理職のための部下への時間管理支援
最終章となる第5章では、視点を変え、上司や管理職が部下の時間管理をどのようにサポートすべきかについて解説されています。
大人になると、多くの人が時間管理の悪循環に陥った状態で社会生活を送っています。
そうした部下に対して、「もっとしっかりしろ」と叱責するだけでは問題は解決しません。
本章では、「合理的配慮」という視点から、部下の困難を理解し、適切な支援を提供する方法が提案されています。
具体的には、「どこで止まっているか」を見極めるフレームワーク、大きな仕事を小さく区切るタスク設計の技法、短いスパンでの進捗管理と定期ミーティングの設定、
視覚化と即時フィードバックの導入、失敗を防ぐためのリマインドや足場づくりなど、実践的な手法が豊富に紹介されています。
管理職に求められるのは、「なぜできないのか」を責めることではなく、「どうすればできるようになるか」を一緒に考える「適応支援」の姿勢であると、著者は強調しています。
おわりに:「できない」を「できる」に変えるために
本書の最大の価値は、時間管理の問題を「その人の性格の欠点」として捉えるのではなく、「適切な支援があればできるようになる課題」として再定義している点にあります。
時間を守れないことで苦しんでいる当事者の方にとっては、自分を責める必要はないという安心感と、具体的な改善策を得ることができるでしょう。
また、周囲で困っている方にとっては、なぜその人が時間を守れないのかを理解し、どのように接すればよいかの指針を得ることができます。
職場の生産性向上、人間関係の改善、そして何より当事者のウェルビーイング向上のために、本書が提供する科学的知見と実践的アプローチは、大きな助けとなることでしょう。
時間管理に悩むすべての方、そしてそうした方をサポートする立場にあるすべての方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。


