KISS+08 改札の前で | 全てデフォルトで~pfrs~ピエフアレスのブログ
四条河原町の交差点は歩行者で溢れていた。
交通整理に当たる警察官も粛々と歩行者を誘導していた。
僕は火照った顔を押さえながら手にしていたお茶を飲み干した。

エリコは高島屋のシャッターに向き合うように一頻り携帯電話で話していた。
電話の主がエリコの父親であること
怯えと諦めのような表情と共に通話ボタンを押したこと
僕の動きを制しながら困ったような顔をしていたこと

そしてそれに対して僕は何も出来ないこと

少し酔いの回った頭の中は現実感を失ってただ僕は待つしかなかった。
交差点の喧噪でエリコの会話は少し離れた僕には全く聞こえなかった。
激高している様子もなく
うなずいている様子もなく
駄々をこねているようにも見えなかった。
ただ全てを撥ね付けるような凜とした強さが見て取れた。

これだけ人が溢れているのに同級生に会わないのも不思議だなと
本当に自分勝手な思いを巡らせていると電話を終えたエリコが
目の前に立っていた。
『ごめんね、お待たせ』
「大丈夫だったの?」
何とも間抜けな問い掛けだ。
『箱入り娘の反抗期に驚いているみたい。永井くんからの手紙も知ってたみたいだし・・ すぐに帰ってきなさいって最終の新幹線には間に合わないのにバカだよね・・』
「って言うか、京都に来るって言ってないの?」
『だから朝起きた時には京都来るなんて思ってなかったもん』
「いやいや、そうじゃなくて・・」
『迷惑だった?』

僕のことをのぞき込むように上目遣いで聞いてきた。
『嵐山に着いてからお母さんには電話してたんだけど。
 仕方ないよね、初めての無断外泊だから』
「迷惑なんかじゃないよ。色々ビックリしたけどね」
僕は目の遣り場に困りながら通り一遍な答えを返した。

『もう遅いし今日は帰るね』
「嵐山なら阪急なんだろ?」
『うん、もう切符は買ってあるんだ』

高島屋入り口の横にある階段を2人並んで歩を進めた。
何か喋らなくちゃいけない、何かを伝えなくちゃいけないのに
何も言葉にならない。
電話で父親と闘ったエリコも歩を合わせるだけで無言だった。
自動改札機が近付くとエリコは財布から切符を取り出した。
『また連絡してもいいかな?』
「こっちからも電話するよ」
『今日はありがとう』

エリコの髪の匂いが一瞬で近付くと互いの唇が触れた。
『おやすみなさい』

切符は自動改札機に吸い込まれエリコはホームへ続く階段を
振り返ることなく下りていった。