新津章夫は変わった。良くも悪くも、大きな変化を遂げた。ファンからそう言われたアルバム「PETSTEP」。その1曲目「トリック・スター」を聴けば、その驚きは容易に感じ取ることができる。
まずポップである。「I・O」にも親しみやすいという意味ではポップな曲はあったけど、悪く言えば軽い。たしかに、曲調は前作にはまったくなかったタイプのものだけど、彼なりの新しいトライは十分に感じられる。
そのひとつは、シンセサイザー、KorgのMSシリーズやRolandの打ち込み型リズムボックス、TR-909の導入。しかし、いかにも新津章夫だと思わせるのは、この曲でもホワイトノイズ音をリズム系に用いているものの、同期は使わずに手で鍵盤を打って録音している。無機質なデジタル感がない。
また、エフェクター面ではベースにオクターバーをかけて重厚感を出している。ギターにオクターバーをかけるのは誰でもやることだけど、ベースの下のベース音? という一見むちゃくちゃな発想が、新津章夫独自の倍速ギターを引き立たせる結果となっている。
さらに、デジタルエコーを手にしたことで、キラキラときらめく倍速ギターの響きはより美しくなった。
匠のごとく入念に手をかけて作られた「I・O」に比べて「PETSTEP」がポップに感じられるのは、音作りの面でデジタル機材をふんだんに用いたことが、そのひとつの理由なのである。
ちなみに、「トリック・スター」の製作中のコード名は「アーリー・バード」(早起き鳥)。こっちの方がしっくり来るんだけどなぁ…。