ドラムの話、その1。 | 新津章夫 Official Blog 《迷宮の森》

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謎に満ちた迷宮のギタリスト、新津章夫のオフィシャル・ブログ。迷宮の森 《Forest in maze》

 突然ですが、皆さんは「ドラえもん」の主題歌というと、どんな曲を思い出しますか? やっぱり、♪アンアンアン、とっても大好き、ドラえもん、を思い出しますかね? 実は3歳になる愛娘が「ドラえもん」が大好きで、年中付き合って見せられています(長兄がDVDに録画して送ってくれています)。

 現在の主題歌、「ハグしちゃお」。ぜひ、一度、聞いてみてください。僕は「ドラえもん」世代ではないから、昔の主題歌にはまったく思い入れはなかったのだけど、今のは宇崎竜童の作曲なんですが、琉球メロディーを取り入れていて、なかなか面白いんです。で、最大の注目点は、ドラムの音。打ち込みですが、超高速のロール音がなんとも心地よいのです。

 これで、ひとつ思い出しました。

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 新津章夫は、歌とドラムが嫌いでした。いや、憎んでいたといってもいいでしょう。時として歌のおかげで背景にあるすべての音作りは無にされ、ドラムの"ノリ"とやらに繊細な音作りも音像もすべて台無しにされてしまう。歌とドラムがあれば、とりあえず音楽として楽しめる、みたいなイージーな部分が嫌いだったわけです。ドラムについては、坂本龍一氏も同じようなことを言っていたと聞きますが…(発言の詳細を知っている方がいたら教えてください)。

 しかし、だからといって、ドラムを否定していたわけではありません。実際、「I/O」では彼自身、ドラムを叩いていますし、その他の楽曲でもリズムボックスや打ち込みを使っていますからね。

 新津章夫が使っていた機材は、以前も書きましたが、初期はエーストーンとローランドのリズムボックスを使っていました。1970年代にはエレクトーンの演奏には欠かせなかった機材です。その衰退ともに姿を消し、シークエンサー系のリズムマシン(打ち込みのリズムマシン)に取って代わられました。「I/O」の一曲目、「オレンジ・パラドックス」で、その音を聞くことができます。

 マネージメント事務所がついてからは、機材面では格段の進歩があり、ローランドのTR-909が買い与えられました。YMOをはじめ、数多くのミュージシャンが愛用した"ヤオヤ"と呼ばれた808の上位機種です。しかし、一曲分すべてを打ち込むようなことはしなかったといいます(実際、彼の909に残されていたメモリはすべて断片的なものばかりでした)。

 まず章ごとに打ち込みをして、それをつないで(アナログ録音だからできるテクニック?)録音し、さらに途中途中で、必ずマニュアルで音を足すのです。

 さて、909を手に入れた新津章夫には、ひとつの約束がありました。それは、「人間のドラマーが叩くようなリズムは使わない」というものです。

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 冒頭、「ドラえもん」の主題歌のドラム・ロール音が面白いと書きましたが、どう面白いかというと、人間のドラマーには絶対に不可能な速さのロール音なのです。

 打ち込みのリズムマシンを使ってもっともつまらない、愚の骨頂ともいえる音作りが、人間のドラマーみたいな音にすること。だったら、わざわざ機械を使う必要はありません(バンドでなり手がいないならまだしも…)。

 機械特有の無機的な面白さ、などというありきたりな発想ではなく、人には実現不可能なドラム・パターンを考える。あるいは、ドラマーの発想にはないパターンにする。ここにリズム・マシンを使う必然性があると思うのです。僕はもう音楽の現場からは完全に遠い人間になってしまったのでわからないけど、たとえば、3種類のタムタムが同時に鳴る、なんてどうですか?(ペダルを使えば可能か?) ま、いわば、そういう発想が機械を使った音作りの楽しさです。

 現在、CD化されている中では、「無印良品BGM 1980~2000」の4曲目「星のささやき」(何度もいいますが、新津彰夫は誤植です)や「サイエンス・クラシックス」に収録されている「亡き王女のためのパヴァーヌ」の大太鼓(実際のラベルの編曲には存在しませんが…)などで、その独特のドラム・パターンは聞くことができます。