「I・O」に収録されている曲目のうち、この曲と「光のオルゴール」「未来永劫」「天気雨」「コズミックトレイン」は、のちに岩田由記夫氏によって見出されプロデビューのきっかけとなったデモテープにも収められております。中でも「ワンダーランド」はデモテープと寸分と変わらない形で仕上げられているのが特徴。
そのデモテープとは、新津章夫が大学3年の時に、ビルの屋上にある水槽タンクの清掃のバイトで稼いだお金で購入した4CHオープンデッキ、ソニーTC4880で制作されたもので、これがまたシンクロなし(専門的過ぎる?)の、とても自宅録音には不向きな機材でした。しかし、このデッキの妙な特徴を逆手にとって作り出した音こそが、その後の新津章夫サウンドを象徴するものになったのですが、そのへんはまたあらためて…。
さて、「ワンダーランド」は元の題名を「Romantische Strasse」(ロマンティッシェ・シュトラッセ=ロマンチック街道)といいました。新津章夫は、件のバイトで稼いだお金を使って大学4年の夏にドイツを中心とした一人旅に出ました。帰国後、その時の印象をすべて音に再現し、制作されたのが上記のデモテープなのです。
そのため、彼が付けた曲名はほとんどすべてがドイツにちなんだもの。あ、当然ですが、1970年代半ばの話なので、ここでいうドイツとは西ドイツです。ベルリンの壁はまだ強固に、そして冷淡に両ドイツを分断しておりました。
話を「ワンダーランド」に戻しましょう。この曲、聴いていただければわかりますが、冒頭から新津章夫にしては40秒目まではノーマルのギター&鈴の音のみ。これも、たしか当時、まだ赤ん坊だった甥っ子のオモチャの鈴を使ったような…。カスタネットは僕が小学生の時に使っていたもの。なんだかリサイクル・ショップみたいな音作りですね。
ギターに関して言えば、この曲の特徴は緻密なバイオリン奏法。これに尽きます。「オレンジ・パラドックス」で驚かせて、この和みの曲で独特な世界に引き込む。曲順もよく練られておりますね。
というわけで、次回は、その「独特な世界」の象徴ともいえる「光のオルゴール」。これを解説しましょう。新津章夫亡き今、この曲の仕組みを語れるのは私しかおりませんから…。