とある事情で「ウイスキーの種類と特徴の見方」を人に説明する際に作った文章です。
間違いも多少あると思いますが、だいたいこういうことだということで、ご容赦下さい。
なお、スコッチウイスキーを念頭に書いている部分が多いです。ウイスキーの特徴の種類 ウイスキーの特徴は、おおざっぱに
①作り方(混ぜ方) ②産地 ③ブランド ④熟成年数 ⑤仕上げ、で決まります。
その他、⑥オフィシャル/ボトラーズ ⑦現行品/オールドボトル、等の考えもありますが、
ハマれば勝手に気にするようになるので、最初は気にしなくていいです・・・
①ウイスキーの作り方(混ぜ方) まず、ウイスキーには
「モルトウイスキー」と「グレーンウイスキー」という大きな分類があります。
「モルトウイスキー」は、原材料に大麦の麦芽だけを使ったもの。香り高く濃厚な味になる傾向があります。
「グレーンウイスキー」は、原材料に小麦やトウモロコシなどの穀物と麦芽を使ったもの。さっぱりとクセのない穏やかな風味になる傾向があります。
この2つを
混ぜる、あるいは混ぜないという組み合わせで、ウイスキーの作り方が決まります。
モルトウイスキーを、1つの蒸留所(※製造工場)内の製品だけで瓶詰めすれば、
シングルモルト。
グレーンウイスキーを、1つの蒸留所内の製品だけで瓶詰めすれば、
シングルグレーン。
そして、モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混ぜて作ったものが、
ブレンデッドウイスキー。
ブレンデッドウイスキーは、複数の蒸留所からいろいろなモルトウイスキーとグレーンウイスキーを集めて混ぜ合わせることが多いです。
また、複数の蒸留所のモルトウイスキー同士だけを混ぜ合わせた「ブレンデッドモルト(またはヴァッテドモルト、ピュアモルト)」というものもあります。
理論上は複数の蒸留所のグレーンウイスキー同士だけを混ぜ合わせた「ブレンデッドグレーン」もあるはずですが、これは見たことがありません。
代表的な銘柄
シングルモルト…
マッカラン、
ラフロイグ、
グレンリベット、
山崎、
余市など
シングルグレーン…
キャメロンブリッジ、
知多など
ブレンデッドウイスキー…
ジョニーウォーカー、
シーバスリーガル、
バランタイン、
ブラックニッカ、
響など
ブレンデッドモルト…
ビッグピート、
ロックオイスター、
シックスアイルズ、
竹鶴など
②産地 世界規模で見ると
「スコットランド」「アイルランド」「カナダ」「アメリカ」「日本」が5大産地とされており、インド、ドイツ、スイス、フランス、台湾などでも製造はされています。
そのうちスコットランド産のもの(スコッチウイスキー)は、さらに細かく地域分類があります。
スコットランドは大まかに国の北側の「ハイランド」と南側の
「ローランド」、ハイランドのうち特にスペイ川流域の
「スペイサイド」、アイラ島の
「アイラ」、その他の島
「アイランズ」、昔ウイスキーの一大輸出港のあった
「キャンペルタウン」に分かれます。
その中で「スペイサイド」は多くの蒸留所が集中して味も香りもよいものができて、「アイラ」は独特の(正露丸やヨードチンキのような)臭いのパンチの効いた香りをさせるものをつくる、といった傾向があります。
③ブランド シングルモルトウイスキーやシングルグレーンウイスキーは、そのまま蒸留所の名前を名乗ることが多いです。
ブレンデッドウイスキーは、多種多様な名前があります。
いま、ウイスキーの情報はネットに溢れているので、ブランドの名前で検索したら「それがどういったものか」の情報はおそらく出てきます。
少しだけややこしいとすれば、日本のウイスキーの場合は「
サントリー角」とか「
ブラックニッカ」のように、ブランドに親会社の名前をつけ、蒸留所の名前はあまり前に出てこない傾向がありますが、
スコッチの場合は基本的に「
ベンロマック」「
グレンドロナック」のように、ブランドと親会社が無関係に書いてある表記が主流だということくらいでしょうか…
④熟成年数 ウイスキーは、原料を発酵させ、蒸留し、樽に詰めて熟成して作ります。
樽に詰めていることによって、樽の木材や、ウイスキーの前に樽に詰められていたものの風味が移ったり、アルコールの刺々しさが無くなっていき、味わいが上がります。
基本的に樽で詰めていた年数が長いほどおいしくなるのですが、樽に詰めていると毎年少しずつ蒸発して無くなってもいきます。
なので、「熟成年数が上がっておいしくなる曲線」よりも、圧倒的に「熟成年数が上がって値段が高くなる曲線」が急になります。
なお、シングルモルトなら同じ蒸留所内で、ブレンデッドなら別々の蒸留所同士でも、基本的にはいろいろな樽の原酒を混ぜ合わせたものを瓶詰めするのですが、
ウイスキーの「何年」という表示は、「混ぜ合わせた中でもっとも熟成年数が若い酒の年数」であると定められています。
なので、取引相場が1000万円以上になっている「山崎50年」なんかは、すべて50年以上樽で熟成されているお酒を使用しているわけです。
世界的ウイスキーブームで原酒が不足がちである為、「熟成年数にこだわらずに、品質が安定するように作りましたよ」という商品が最近増えてきています。
⑤仕上げ 仕上げ、とまとめましたが、タイミングにより3つあります。
「麦芽の乾燥」「樽での熟成」「瓶詰め直前」です。
1.原料の麦芽を乾燥させるときに、ピートを使うか、使わないか ピートというのは石炭の前の段階の泥炭、何百何千何万年前の植物が枯れて積もっていった天然の燃料です。
これを麦芽の乾燥に使うと、燻製の要領で煙の香りが麦に染みこみ、その後のお酒もスモーキーになります。
逆に使わなければ、麦の特徴がよく出るとされています。
なお、ピートの元になった植物の種類によっても風味は大きく左右され、
「スペイサイド」地域だと、ピートの中に花や草が多く、煙の中にも甘みや華やかさがある仕上がりに。
「アイラ」地域や「アイランズ」地域だと、ピートの中に海藻が多く、ヨードチンキのような薬っぽい独特の臭みのある仕上がりになるとされます。
2.どんな樽を使うか 熟成に使う樽(カスク)の種類によっても、大きく味が変わってきます。
新しい樽は、樹液などの木の成分が大量に溶け出してくるので、個性を出したいブランド以外にはあまり使われない傾向があります。
独特の甘くて華やかな風味がつくとして人気なのは、スペイン特産のワイン「シェリー」の空き樽を使って熟成されたもの。「シェリーカスク」や「オロロソカスク」「ペドロヒメネスカスク」などと書かれていればこれです。(オロロソ、ペドロヒメネスは、シェリー酒の中の種類)
シェリーと似たようなワインの空き樽を使った「マデイラカスク」「マルサラカスク」というものもあります。
アメリカのグレーンウイスキー「バーボン」の空き樽も人気です。「バーボンカスク」「バーボンバレル」と書いてあればこれです。
その他、ワインの空き樽を使った「ワインカスク」「ソーテルヌカスク」等も最近は流行ってきています。
また、原料となる木材で「スパニッシュオークカスク」「アメリカンオークカスク」「ジャパニーズカスク(ミズナラ)」という呼び方もあります。
他に「ホグスヘッド」という表記をよくみますが、これは「およそ225リットルのサイズに組みなおした樽」くらいの意味です。
3.瓶にそのまま詰めるかどうか 多くのウイスキーは、瓶に入れる前に規定の度数となるように水を加えて調整します。
これは、樽で熟成していると、樽ごとにアルコールの蒸発具合が異なるので、度数が樽ごとに変わってくるためです。
一方、樽出しそのままの度数で詰めることもあります。これは「カスクストレングス」といいます。
また、「種類の違う樽で熟成させた原酒を混ぜ合わせて瓶詰め」という商品もあり、これは「ダブルウッド」「ダブルカスク」「トリプルウッド」等の名称で売られています。
「瓶に詰める前に、樽を入れ替えてしばらく寝かし、複数の樽の特徴を持たせる」といった珍しい商品も最近はあります。
以上がウイスキーの特徴の基本的なものです。
以下は余談ですが、時間があれば・・・
⑥オフィシャル/ボトラーズ ウイスキーを造っている蒸留所、特にスコッチの蒸留所は、作ったすべてを「シングルモルト」として出荷しているところは稀です。
だいたいは「ブレンデッドウイスキー」用に出荷する為のものも作っていますし、中には元からブレンド用専用と考えて建設された蒸留所もあります。
また、スペースの都合上生産量のすべてを保存できない」「保存スペースはあっても瓶詰め工場を回す人員がいない」などの理由で、自社製品を生産する能力と、瓶詰めして販売する能力の間に開きがある蒸留所もあります。
すると、
「自社では製造能力が無いが、蒸留所から樽を買い付けて、瓶詰めして、販売する会社」というものが存在する余地が生まれます。
そういった会社を
「ボトラーズ」、そこから販売されたウイスキーを「ボトラーズボトル」とか「ボトラーズもの」等と呼びます。
反対に、「蒸留所で作られ、瓶詰めされ、販売されたボトル」を「オフィシャルボトル」と呼びます。
ボトラーズは、
「ブレンデッド向けにしか作っていない蒸留所のウイスキーをシングルモルトで飲める」「オフィシャルでは存在しない熟成年数のものを販売してくれる」「一般的でない実験的なブレンデッドを販売する」といった長所がある一方で
「樽単位で販売することが多いのですぐ売り切れる」「樽同士で混ぜたりをあまりしないので、品質が安定しない(大当たりの時もあれば大ハズレの時もある)」「概ね高め」等の短所もあります。
⑦現行品/オールドボトル 上記の「オフィシャル」や、ブレンデッドモルトの話ですが、いま市販されているものを「現行品」、既に売られていない商品を「オールドボトル」と呼びます。
「ジョニーウォーカー黒ラベル」は、当然いまも販売されていますが、たとえばその中でも「80年代に売られていた瓶」なんかは「オールドボトル」という扱いになります。
よく見ると時代ごとにラベルのデザインや瓶の形、販売している会社などが違い、中身も時代時代で使っているお酒の種類や比率が時台時代の流行の味に調整してあるので違います。
ちょっと違う概念ですが、「既に廃業してしまった蒸留所のお酒」は「閉鎖蒸留所モノ」として珍重され、やけに高値になる傾向があります。
②の補足・・・アメリカと日本のウイスキーについて アメリカ産のウイスキーは、スコッチウイスキーと名称や製法が色々異なります。
まず、ウイスキーには「大麦の麦芽だけを原料とするか、それ以外の穀物を使うか」で「モルトウイスキー」「グレーンウイスキー」という大分類がありますが、アメリカで作られているものはほとんどが「グレーンウイスキー」です。穀物の中でも、特に「コーン」すなわちトウモロコシを多く使うことが大きな特徴です。
また、アメリカでは麦芽の乾燥にピートを使う習慣が無かったため、実験的で特殊な商品でない限りは、ピート香は基本的にしません。
そして、必ずではないですが、熟成させる為に使う樽は新しい木材で組み立てたものを、バーナーなどで内側を激しく焼き焦がしてから使う習慣があります。これによって木から甘い香りが出やすいとかどうとか・・・
その上で、
トウモロコシを原料の51%以上80%未満使用し、内側を焦がした新樽で熟成⇒⇒⇒バーボン・ウイスキー
トウモロコシを原料の80%以上使用すると(樽はなんでもいいので)⇒⇒⇒コーン・ウイスキー
大麦を原料の51%以上使用し、内側を焦がした新樽で熟成⇒⇒⇒モルト・ウイスキー
(※これは「発芽した大麦だけを使ったモルトウイスキー」と同じ名前ですが、別物です)
小麦を原料の51%以上使用し、内側を焦がした新樽で熟成⇒⇒⇒ウィート・ウイスキー
ライ麦を原料の51%以上使用し、内側を焦がした新樽で熟成⇒⇒⇒ライ・ウイスキー
と、それぞれ呼ばれ、樽での熟成年数が2年以上になるとそれぞれ頭に「ストレート」が付くようになります。(ストレート・バーボン・ウイスキーなど。特に表記しないことも多い。)
また、バーボン・ウイスキーのうち、「テネシー州で作られ、樽に詰める前にサトウカエデの木炭で酒を濾過する行程を行う」条件を満たすと、「テネシー・ウイスキー」と呼ばれます(ジャック・ダニエルなど)。
バーボンについては、「フォア・ローゼス」「I.W.ハーパー」「メーカーズ・マーク」「ジム・ビーム」「アーリー・タイムズ」「ジャック・ダニエル」等、コンビニで小瓶が並んでいることも多いので、目にすること口にすることも多いと思います。
日本産のウイスキーですが、分類や製法はほぼスコッチ・ウイスキーと同じです。特徴もよく似ています。
蒸溜所として有名なのはサントリー所有の「山崎」「白州」「知多」、ニッカ所有の「余市」「宮城峡」、ベンチャーウイスキー(イチローズモルト)所有の「秩父」、マルスウイスキー所有の「駒ケ岳」、メルシャンが所有してキリンに渡った後で閉鎖された「軽井沢」等があります。
それらで作られた原酒を、混ぜたり、混ぜなかったりして、多様なウイスキー銘柄が売られています。
最近、新しく蒸溜所を作るのが流行っていて、この数年でも「鹿児島の津貫・嘉之助」「滋賀の長浜」「北海道の厚岸」等と続々新しい蒸溜所が稼動を始めています。