「結婚に求めるもの」

 

 

 

 

私には、ウクライナからフランスに移住してきた友人が5人いる。

その誰もが、「結婚」によるもので、出逢った頃は、みんな必死でフランス語を勉強していた。

どう話していいのかわからないのだけれど、私とは明らかに覚悟が違うと感じていた。

 

今日はその中の1人の女性(Aさん)の話を書いてみたい。

 

8年前の暖かい春の午後、友人たちとコーヒーを飲み談笑していると、目の前にいたウクライナの女性2人が話しはじめた。

 

「それにしても、フランスに来ることができてよかったわ~。」

 

私は彼女たちが、どれほどの決意を持って、この場所にいるか知っていた。

なぜなら、2人とも、ヴァカンスに入ると、長距離バスに乗り、ウクライナまで物資を運ぶために帰っている。

それは、こちらで買った洋服だったり、食料だったり、ブロカントで二束三文で売られているようなテレビだったり、ゲームだったり……。彼女たちは家族のために、それらを箱に詰め、長い旅路をいく。

 

聞けば、Bさんの家族はロシアにいるそうだ。

 

「あっ!これ、姪っ子が喜ぶわ!」

「これ、母が食べて美味しかったって言ってた!」

 

2人とも口を開けば、何を母国へ持って帰るか楽しそうに話している。

 

私はその時、2人とも大変だろうけど、いつも笑顔で幸せそうだな……なんて、暢気に思っていた。

 

 

 

すると、BさんがAさんに話しかけた。

 

「ところで、どうなの?

結婚生活は大丈夫?」

 

「まぁ、今のところなんとかね」

 

「それにしても、よく耐えるわね」

 

私には、なんのことかわからなかった。

 

すると、Bさんが私に話しかけてきた。

 

「知ってる?彼女の夫、男性しか好きにならないのよ。」

 

「えっ?」

 

私は思わず、Aさんの顔を見た。

そんなことを聞いてしまっていいのだろうか?

 

Aさんは、何一つ気にすることもなく私に笑顔を向ける。

「私もね、結婚してから知ったの!夫には長年付き合っている恋人がいるのよ」と。

 

「そうなのね……」

 

何も気の利いた答えができそうにない。

 

そんな私の気持ちを察してか、Aさんは話を続けた。

 

「結婚したときは、恋愛していたと思ったのに、結婚したら、親の介護を私に押し付けて、彼はずっと恋人のところなの。

最初は辛かったし、戸惑ったけれど、お金はきちんと渡してくれるし、生活は保障されてるの。

義母は優しい人だから、介護していても苦にならないし、夫は私に感謝してくれている。

まぁ、なんだかんだ言っても、幸せだから、大丈夫よ!」

 

そう言って、彼女はケラケラと笑った。

 

「そうね。ちゃんとお金をくれてるんだから、それでいいわね」

Bさんは言った。

 

 

結婚とは……。

 

結婚とは……??

 

 

私は彼女たちの生き方を、数年間しみじみと見つめていた。

その頃、当たり前のように、私の車に乗りこみ、「〇〇に連れてって!」と無理難題を言ったり、一緒に出掛けても「会計」になると行方不明になったりと、様々な考え方の相違にぶつかった。

 

ドイツの友人は「あの人たちは、お金のあるものが施しをするのは当たり前だと思っているからね」と、首をすくめた。

 

 

夫が、姑が、義理の娘が……。

誰もが日々、様々な悩みを抱えている。

 

だけど、自分が抱えている小さな悩みなんて、本当にちっぽけなものだったと感じた。

 

フランスには多くの移民が住んでいる。

出逢うのはいつもフランス人ではなく、いや、むしろフランス人じゃない人と知り合うことの方が多いのかもしれない。

 

 

ロシアとウクライナの戦争を見ていると、誰しもが突然、被害者になるだけでなく、加害者になることもあり得るのだと改めて思った。

ロシアに住む貧しい母親を思い、自分の年金をすべて母が受け取れるよう、母親のために人生を捧げているBさん。

 

彼女がウクライナで買ってきてくれた毛糸が、あと5玉残っている。

 

私はそれを大切に残しておこうと思っている。

戦争が終わったら、あの毛糸を持って、彼女に会いにいこう。

 

 

みんな必死で生きているんだ。