音でゴジラを描いた男 | 懐かしエッセイ 輝ける時代たち(シーズンズ)

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懐かしい’60s’70s’80s
ひときわ輝いていたあの時代の思い出のエッセイ集です。
毎週土曜日更新予定です。

夏の甲子園が終わって暑さも一段落したような気がします。

ただ大雨がいつ来るかわからない状況なのでホッとしていられませんね。

今回の大雨被害の調査で地盤が比較的強固であっても雨量がケタ違いだと土砂崩れが起きることが判明しました。

記録的豪雨だとどこでも起こりうるということです。

恐ろしい時代になったものですが日頃の備えだけはちゃんとしておきたいものです。


さて、毎月の最終週は最近のトピックを取り上げています。

もちろん根底のテーマは昭和・ノスタルジーです。


今年は作曲家の伊福部昭の生誕100年とゴジラ生誕60年が重なるメモリアルイヤーでBS放送でゴジラ特集がいくつも組まれました。

その中で「音で怪獣を描いた男」という題名の伊福部昭特集番組が放映されました。


今日は作曲家で映画音楽の巨匠、伊福部昭さんを取り上げたいと思います。



実は私はこの方について良く知らなかったのです。もちろんサウンドのほうはゴジラのテーマをはじめ主に映画音楽を中心に幼い頃から馴染んでいました。
本ブログ「海底軍艦 」の項で伊福部サウンドに触れた時、このサイト(伊福部昭公式ホームページ )を訪問して詳しく知ることができました。


伊福部家は先祖代々神社の神官を務めてきましたが、祖父の時代、明治維新によって跡を継ぐことができなくなってしまいました。
その後一家は北海道に移り住み、そこで出会ったアイヌ音楽に強い影響を受けたそうです。
つまり幼少時代から神楽やアイヌ音楽といった民族的な音階がすでに根付いていたんですね。
そして独学でギターやヴァイオリンを習い始め、少年期にすでに作曲まで手がけるようになりました。
(やっぱり天才というのは違うんですねえ。同年代の頃は私などはピアノの稽古を卒業してしまい、漫画に夢中で趣味と言えば写真撮影を嗜む程度でした。)
そして大学卒業後、作曲した「日本狂詩曲」でチェレプニン作曲コンクールで第一位を獲得したのでした。
映画音楽を手がけたのは1947年からで「銀嶺の果て」からでした。

以後、300本以上もの映画音楽を製作しました。


「ゴジラ」との出会いは1954年、姿形もわからぬ巨大怪物の映画音楽を依頼されて困惑します。
初めはあまり気乗りがしなかったのですが台本を読んで一気に心を動かされます。
核実験で目覚めたゴジラが東京に現れる……実は伊福部は戦時中は軍事研究部門にいて研究中に放射線を浴びて体調を崩したことがあったのでした。
ゴジラと自分に共通点を見出し、運命的なものを感じたのでしょう。
さっそくゴジラ映画の作曲に取り組み始めるものの初物尽くしの上、ゴジラの姿さえ見せてもらってないので苦労します。
特撮の円谷英二は秘密主義で完成するまで見せると言ってくれません。
しかし伊福部の熱意で特別にフィルムを見せてもらうとそのゴジラは予想よりもさらにさらに大きなイメージでした。
これはもっと巨大な音楽が必要だと感じ、完成させたのがあのテーマ曲でした。
リズム重視で同じメロディーを繰り返すのが特徴的でこれは伊福部音楽の特徴でもあるそうです。また幼少時代からなじんでいた民族音楽の手法でもあります。
このへんの手法は2014年リメイク版を製作する際、ハリウッドも倣ったそうです。


次にマーチ(自衛隊マーチ)ですがこちらも「伊福部マーチ」と呼ばれるほど特徴的なんだそうです。
たしかに欧米の威勢のいいマーチと聴き比べるとだいぶ違います。
その理由は途中で短調に変わるからなんです。当時はまだ戦後間もない頃だったので、戦争に向かう人達のつらい心情を現したためだそうです。
このユニークな「伊福部マーチ」もゴジラのテーマと並ぶ名曲といわれてますね。


それからもう一つ、ゴジラ映画で重要なシーンがありました。
兵器提供を拒んだ芹沢博士を説得する場面です。
頑なだった芹沢博士の心を動かしたのがたった一つの曲でした。

博士の部屋のテレビに映された被害の惨状、そしてそこで流れるのが大勢の少女達の歌うレクイエムです。
ここは映画で最も重要な場面ですから心を揺さぶるような曲が必要です。そこで伊福部は撮影現場に立ち自らタクトを振り、強い平和への思いを込めたのでした。
こうして傑作映画「ゴジラ」は完成したのでした。


私はこの機会に映画音楽だけでなく日本狂詩曲も聴きました。やはり民族音楽(日本的)の要素があって大変ユニークです。
代表作「タプカーラ交響曲」はゴジラと同年に作られてます。最も脂が乗っていた時期なのかもしれませんね。


こんな偉大な人を今までよく知らずに私もずいぶん損をしていました。
間違いなく20世紀を代表するアーティストだと思います。