45年前位の5月に友人と焼尻に初めて上陸した。雑魚寝のフェリーが港に到着した時小学生の鼓笛隊に迎えられた。島では「綿羊まつり」が開かれているらしく、それを知らせる鳴り物だったらしいが、結局食べなかったんじゃないかなぁ。宿は友人が数年前に来て「すごくよかった」と言っていたので同じ灯台の近くの宿(「灯台荘」と言ったのじゃなかったか)に泊まった。宿は当時で築30年は経っていそうな普通の2階建て家という感じだった。部屋は築年数相当の経年劣化があり、客が使用するための何の気づかいも感じられなかった。結論から言うと、メシは何の感動もなく(お祭り最中の筈なのに羊の肉も出なかった)、たいしてうまくもなく、風呂には夥しい数のワラジムシが蠢いていて、湯船に入るのをためらう程だった。ここのどこが「すごくよかった」のかその友人に尋ねたが、彼は黙り込むばかりだった。

 しかし、島の景観はよかった。宿の近くには白浜海岸があり、真っ青な水平線と白い浜のコントラストがよかったし、名物オンコの原生林も珍しい景観だった。2時間位ぶらぶら歩いたら島が1周できるというのも、丁度良い感じだった。

 島を出るとき、少し港付近を散策したら、至る所にツブの稚貝が張り付いており、通りがかりの島民に訊いたら「兄さんたち、時期が悪かった。夏場だったらぎっちり身の詰まったツブをがっつり喰えたのによぉ」と言われた。いや、本当に時期が悪かったのかも知れない。

 それから20数年たったころ、市内の知人に焼尻の話をしたら、いたく気に入り、自分でいろいろ調べ始め、その2年後にいきなり焼尻島へ移住して、喫茶店を始めてしまった。ちょっと変わり者だけれど、趣味がよくてまめで料理の上手な人だったから、きっと面白い店をやっているのだろうと思う。Oさん、元気かなぁ。

焼尻島 灯台付近