このテの作品は誰が主演か、悩むところが多いのだけれど、今作『ガス人間㐧1号』では特に悩みどころだ。タイトルから行くと、ガス人間役の土屋嘉男となるのだろうけれど、善玉の刑事役でいくと、三橋達也だろうし、出演時間や内容からいくと、春日藤千代役の八千草薫となるだろう。
 ストーリィはこうだ。銀行強盗を追う警部は逃げる自動車が転落した近所の家に迷い込む。そこは零落した日本舞踊春日流家元 藤千代の家だった。ここが怪しいと踏んだ刑事は藤千代の身辺を洗って行く。すると、図書館員の男に行きあたる。そしてこの男が犯人のガス人間だと分かってくるわけだが、この男と藤千代のなれそめや関係性が全く描かれておらず、ただただお互いは慕い合っており、男は銀行強盗を繰り返して藤千代に貢ぎ続ける。男は自分の意志でガス人間にも、通常の人間にもなれる特殊な身体能力を有しており、ガス人間になった男は鉄格子などは楽々通り抜け、もちろん拳銃の弾などもすり抜けてしまう。結局警察は目の前に居る犯人を何度もみすみす逃してゆく。
 藤千代を追うのは刑事だけではなく女性新聞記者の佐多契子も喰らい付いてくる。佐多はこれがデビュー作。映画製作当時はこれくらいぽっちゃりしていた方が可愛く見えたのだろう。顔も決して絶世の美人ではないが、ちょっといじったら泣きそうな目をしていて、S心をくすぐる顔つきをしている。ただし、ここでは警察が制止しようとも、中へぐんぐん入り込んでゆく気の強い女という役どころである。この後映画数本に出て消えてしまったが、早くに結婚でもしたのだろうか。

 そういえば、書いてゐなかったが、本作における八千草薫の美しさは特筆に値する。さすが松本零士がメーテルのモデルにしていた位の美貌である。そして、藤千代を補佐する付き人役は左卜全。この頃から既に能の翁面にそっくりである。ここでは鼓打ち(パーカッショニスト)でもある。

 手詰まりとなった警察は、結局藤千代の新作発表会場を無味無臭で可燃性のUMガスを充満させで爆発させ、ガス人間を焼き殺そうという暴挙に出る。面白いというか、おかしいのは、客席は全部警察が買占め、一般客は入らず、何も知らないガス人間だけが会場に入ったところを狙うというものだが、ほぼ誰も居ない会場でひとり藤千代が踊り、ひとりガス人間のみが見物する。というもの。こんな状況では新作発表する意味などないと思うのだが、それでも藤千代は強行する。だが、会場の外には沢山の野次馬が取り巻き、警察・消防が準備万端整えて待っている。知らぬはガス人間ばかりなり。もう笑うしかない。一時警察網をかいくぐってやくざ衆が会場に入り込んだが、結局ガス人間に追い払われる。そして、会場にはガスが充てんされ、発火。となるはずだが、発火装置がうまく動かない。失敗である。
 と、踊り終えた藤千代がガス人間と抱き合い、彼が持っていたガスライターに火をつけて爆発させて、ジ・エンド。という壮大なカタストロフ作品となって幕を閉じる。なんまんだぶなんまんだぶ(またかよ)。
 監督は本多猪四郎。特技監督は円谷英二。本作もツッコミ所満載で飽きさせない。ここまであらすじを書いたところで、楽しみ方には一向に影響しない傑作であります。