歯科 へ走った。恥ずかしかった。手で顔を隠しながら走ったが、到着する寸前にマスクをしてくればよかったと気付いたが、もう遅い。急ぎ歯科へ入り受付をした。

「はごがはずれた とでんはしたものでふ。」

 受付嬢。真面目を装っているが、目が笑って居る。これは仕方がない。

 待ち時間はなく、すぐに受診できたが、すぐに顎を戻してくれる訳ではなく、その前にレントゲンを撮る必要があった。出来上がるまで数分の間、看護士たちがこちらへ顔を向けない。きっと笑いを堪え切れないでいるのだと思った。これも仕方がない。

 レントゲン写真が出来上がり、医師は写真でズレを確認しながら、顎を元の位置に戻した。その間数分。「顎関節症の疑いがあります。治療を進めた方がよろしいですよ。」と医師は薦めた。
「はい。」と軽い返事をして席を立った。まずは自分でやってみようと思うことがあったからだ。 
 左奥歯の奥に、歯ブラシが触れると“いずい”、というか、“響く”部分があった。舌先で触れるとざらざらする。おそらく歯垢が付いてゐる部分があると思われた。まずはここを毎日しつこく磨いてみようと思った。

 それから毎日毎食後、特に左奥歯を丁寧に磨いた。細かく小さく小刻みに磨くのが一番効果があると思えた。奥歯がつるつるし始めた時、顎が外れにくくなってきたのを感じていた。 そして、磨けば磨くほど顎は外れなくなった。今ではうっかり大あくびをしても顎は外れない。
 もちろん、これで顎関節が治癒できたと思ってはいない。顎は今でもがくがくしているし、歯の噛み合わせも悪い。
 自分は酸っぱい飴が好きで、特に「小梅ちゃん」は好物だ。「小梅ちゃん」には一袋に1個、大玉が入って居る。これが直径2.5cm位の大きさ。そう、丁度夢で見る飴や小石と同じ位の大きさなのだ。これを口に含むと、顎ががくがくし、つるんと飲み込んでしまいそうで、ちょっと怖い。本当におそるおそる、という感じで舐め進める。ある程度の大きさ(1.5cm位?)まで小さくなって初めて安心しながら舐めることができる。こんな状態だから、きっとまだ顎関節症の疑いは晴れてはいない。とりあえず今は酷い症状は出て居ないという程度に過ぎないのだと思って居る。だから、とりあえずの処置ということになるし、人それぞれの性質もあるだろうから、誰にでも「歯を磨いたら良くなる。」 とは言えないが、気になる人には試す価値はあると思う。金はかからないし、体に負担になる事もないからである。
                                                 [おわり]