コッペパンは自分と同じかそれ以上の世代にとっては忘れられない思い出があることだろう。そしてその思い出のほとんどについては、余りよい思い出ではないと。なぜなら、コッペパンはまずい食べ物の代名詞だったから。今とは違って、1クラス45名かそれ以上という子供の多い時代だったから、大量に作らなければならない。もしかしたら原料を水で薄めるなんてこともされたかも知れない。進駐軍にゴリ押しされたアメリカの余剰小麦の質の悪さや古さがコッペパンの質に影響していたのかも知れない。今、たまにパン屋で「昔懐かしコッペパン」なるものが売られているが、原材料も焼き方も違うのだろう、味わってみたら似ても似つかぬ旨さだった。

 そんなコッペパンだったから、みんなは残していたし、自分もよく残した。ただ、残してはいけないと指導されていたので、自分は残した分をカバンに入れて持ち帰った。そして、持ち帰ったことを忘れてカバンに入れたまま、また持ってきてしまうということがよくあって、気付いた時にはカバンの底には何個も乾き切って軽石のように固くなったコッペパンが何個も発見される、なんてことも少なくなかった。
 今はパンだけでなく、ごはんやお蕎麦、うどん、スパゲッティが出るようだが、自分の時は殆どコッペパンだった。たまにそうでない時もあったが、それはまた別の機会に書こう。

 さて、そんな評判の悪いコッペパンだったが、自分が一度だけうまい!と思ったコッペパンがあった。 
 忘れもしない中学1年の時。その日は揚げパンが出たのだ。コッペパンを揚げて砂糖とシナモンを振ったものだった。自分は、これはうまいと思った。珍しいパンだったので、前で食べていた教師が「このパンはどうだ?旨いと思う人は手を挙げて。」と言ったので自分は迷わず手を挙げたが、何故か自分一人だけだったので驚いた。

 後で友達に訊いてみたら「あれは古いパンを揚げて復活させたものだよ。それに手がべたべたして気持ち悪かったじゃないか。あんなもの、菓子パンに比べたらまずくて食べられないってやつさ。」聞いて二度驚いた。あれを見て古いパンだとみんながわかったというのがすごいと思った。それに、菓子パンと比べるなんて、考えたこともなかった。菓子パンは非日常の物。それを給食になんて、自分にとってはとんでもない考えだったのだ。
 とにかく、この揚げパン、よっぽど評判が悪かったのだろう、二度と給食に出されることはなかった。