ただ、自分の胸に迫ったのはカナダ パトリック・チャンの演技だった。
高橋大輔現役の頃から日本勢の前に立ちはだかって来た(憎っくき)選手である。
少し前は4回転を1回飛ぶだけでものすごいことだったのに、今は4回転にコンビネーションを付けてゆくことで高得点を狙えるという時代になった。逆に言えば、ジャンプが苦手な選手にとっては不利な状況となってしまった。
思い返せば2010年バンクーバーオリンピックで浅田真央が最高難度のトリプルアクセルを成功させながらも2位に甘んじてしまったことを契機として、ジャンプへの評価が大幅に変更されたということが、今となっては皮肉なことである。
そしてこの評価の大転換がパトリック・チャンには不利に働くこととなった。
彼はジャンプが下手な選手ではない。実際に4回転トウループと3回転トウループのコンビを成功させているが、本来彼の持ち味は流れるように美しいステップとスピン、そして華麗なダンスである。
常にフィギュア界のトップ選手でありながら、オリンピック個人種目では金メダルに届かなかったという不運。そして体力を使うジャンプ偏重の時代には年齢の壁もあった。
そのパトリック・チャン現役最後の見事なステップ、華麗なスピンにぐっと来てしまったのだ。
個人で金は取れなかったが、国別対抗で金を獲れたことで、彼の引退に花を添えることができたのはよかったと思っている。長年華麗な演技を見せてくれてありがとう。お疲れさまでした。