国会前で盛り上がっているいわゆる「戦争法案」反対の集会。自分はこの「戦争法案」という言葉に対して漠然と違和感を持っていたのですが、これについてひとつのヒントを得るような記事を見つけました。それは「SAPIO 2015年11月号」つまり先月号の金田一秀穂さんの寄稿文です。以下その前文と画像を掲載したいと思います。
『戦争法案』 ~気分を盛り上げるだけの思考停止の言葉~
 
論語にこんな一節があります。ある時お弟子さんが「先生が政治をやられるとしたら何をなさいますか」と孔子に訊ねる。すると孔子は(まず名を正そう(必也正名乎)』と答えるのです。「名」は「言葉づかい」と訳しても差し支えないでしょう。政治は言葉で動くのだから、まずその使い方を厳密にしておかなければならない、と言うのですね。
 ことほど左様に言葉は大事なのですが、今の政治家にその意識はあるのでしょうか。
 例えば安保法案をめぐってしばしば使われた「国民の理解」(を得る/得られない)という言葉。総理をはじめこの言葉を使う時には必ず「理解=賛成」という願望がこめられています。「理解しているから反対するんだ。」という人だっているのに、「反対するのは理解していないからだ」と言わんばかりです。こうなると反対意見に耳を傾けたり、傾法案の正否を改めて点検したりはできませんね。つまり議論を放棄しているのです。
 では反対する野党はどうかと言いますと、こちらはこちらでやっぱりお粗末。彼らは安保法案を「戦争法案」と呼び、その上で反対する。
 そう呼んだからと言って法案の中身が変わることはありません。一方で、この言いかえによって本質が歪められてしまう大事な言葉がある。「戦争」です。これは非常に重たい言葉で、そう軽々しくは使えないし、使う時は具体的な思考の立脚点として、慎重に扱わねばなりません。
 ところが「戦争法案」と呼ぶ人々の「戦争」には具体性も重みもない。無条件で悪だから反対とされ、これでは思考停止です。悪いことに本質は失われても言葉そのものは「戦争」ですから、なにか大ごとに取り組んでいるような気分になれる。つまりこうした言いかえは、思考よりも気分を助けるのです。賛成前提の「国民の理解」もやはり気分に傾いていますね。
 気分を盛り上げるのは、言葉の持つ魅力的な効能のひとつでして、例えばペットの雌雄を「女の子/男の子」と呼び、飼い犬を「ウチの子」と言いかえる方がいます。また、失礼ながら「ちょっとそのお年では……」と思うような女性が平気で「女子会」と呼ぶ食事会を催す。
 対象は同じでも、別の言葉を使うことで親密さや仲間意識が強まるのでしょう。大衆の言葉の中には違和感を覚えるものもありますが、こうした場面で当人が言葉の楽しみを味わっているのなら、それはそれでいいと思っています。
 しかし大事なことを決定するオフィシャルな言葉に対してさえ同じ態度で接してしまってはいけません。ましてやオフィシャルな言葉のプロであるべき政治家のみなさんが、「戦争法案」と言われたら今度は「平和法案」だの「積極的平和主義」だの、またまた言いかえを行うように、気分優先のおしゃべりしかできなくなったらおしまいでしょう。
 まず「名を正す」こと。言葉の「遊び」の部分まで国民を代表して下さいなどとは、
誰も頼んでいないのですから。

   杏林大学外国語学部教授
  日本語学者 金田一秀穂
SAPIO 2015年11月号より

 この説でいうと、守るも攻むるも黒金の、ではなく、守る方も攻める方も気分だけでしっかり施策して議論しようとしていないということなのですね。わかります。その通りだと思います。これではすれ違いだけで身のある議論はできません。国会前の熱狂も自分には違和感があります。行動するのは悪いことではないと思いますが、思考せず雰囲気で血が湧きたった勢いで運動している感じは否めないのです。自分ももちろんそうですが、改めて法案を読み、思考し、その上で行動するということが大切なのだと思います。金田一家、日本語百年のひみつ (朝日新書)/朝日新聞出版

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