$旧聞逍遙
Scene in Venice by Lucien Levy - Dhurmer (1865 - 1953)


前行く人が 同じ方向へ歩いている と見えていたのが
突然近付き 擦れ違いざまに 消えてしまう

夜の不思議


暗闇の 林の一角
光すらない その先に
白い服着た 老婆がひとり はっきり見える

夜の不思議


月明かりが 眩しくて
これなら読めると 持ち出した本
開いた瞬間 文字が蒼い闇に溶けゆく

夜の不思議


朝に 着想を得て
深夜 完成した書き物が
当初のものとは 似ても似付かぬ

夜の不思議


真夜中、 ろうそく一本で
自分の顔を 鏡で映すと
己が眼に 狡猾 貪欲 殺意 を含む光を帯びる

夜の不思議