黒い服を纏った女がやって来た。
私は女に仕えねばならない。
涙まで流して止める妻を振り切り、私は旅支度を始める。
女と私は見つけねばならない。
それまで、旅は、続く。
女は、肩に乗せていた濃茶の羽毛、蒼く光る目を持った梟(ふくろう)を私へ差し出す。
彼は一瞬にして私の右腕を止まり木かわりにして留まってしまった。
爪が皮膚を刺し、一筋の血が大地へ滴り落ちる。
そこから西へ赤い線が伸び始める。
この線を辿って行けば、それを見つけることができるのだろう。
砂漠の中に点在する城塞都市のひとつひとつを訪ね歩き、それを探し回る。
時々女はすばやい動きで姿を消すが、彼が腕に留っているので探し出すことができる。
と感じる。
処々訪ね歩く内、それはアガルタにあるという噂を得る。
しかし、アガルタに不穏な動きあり。注意されたし。との情報も。
しかし、われらは行かねばならぬ。
街へ入るとすぐ、われらは取り巻かれてしまう。
女は難なくするりと潜り抜けてしまうが、私はそうは行かない。
すると、彼が居なくなり、右手にスパナに似た形の鉄棒が握られて居る。
私は、それで邪魔者の頭を割り、危難を切り抜けて進む。
この時私は残忍になる。
返り血で両手は真っ赤、顔もねばねばして生臭さがこびり付く。
だが、邪魔する者が何人頭を砕かれ倒れようと、私は何とも思わない。
争いが終わり、ふと気づくと、傍らには女が居り、右腕には彼。
そして周囲に夥しい死体の山。
長老が出てきて女に挨拶をする。
城の地下室にそれはある。持ってくるから暫し待てと云う。
祭りが行われている街の広場で、繰り広げられる奇異な踊りを楽しみながら長老を待っていたが、長老が広場に着いた瞬間に彼が飛び立ち、私は暫時盲(めしい)となった。
暗闇の中繰り広げられているであろう、百人の僧による壮大な儀式の後、それは女の胎内へと戻され、その瞬間私の眼も再度開いた。
どうやら、その時、儀式の中心に居たのは、彼であったらしい。
「おまえ、賢いなぁ。おまえ、すごいなぁ。」
と話し掛けると、
『“おまえ”ではない。わが名はケルビム。』
と頭へ直接語り掛ける。
「おまえ、人間の言葉が解るのか。」
『 だから、“おまえ”ではない。わが名はケルビム。』
「わかった、わかった。」
私は明日の朝、帰路につく。彼ともお別れだ。
・・・・・・・夕べ見た夢の話である。・・・・・・・