
こちらは毎日氷点下で植物や果実の成る環境ではないけれど、四国あたりではこんな明るい光の粒のような果実がなっている。しかもこんな1年で一番寒い季節が旬と言うのだから、ときどき不思議な気持ちになる。
この光の粒を2個室内に持ち込んだだけで、部屋中がぱっと明るくなり、甘酸っぱい匂いがふうっと漂う。
こんな時、梶井基次郎の『檸檬』を思い出してしまう。彼は檸檬を爆弾と言ったが、自分はこの伊予柑を何と喩えよう。
白と灰色の寒い国の人々が無意識に求めてしまう、南国からの光と温もり。
このニュアンスを表したいが、適切な言葉が見つからない。
梶井基次郎の天才を、改めて思う。
『太陽を盗んだ男』という映画がある。中学校教師が原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、自宅で原子爆弾製造に成功し、それを武器に警察を脅迫する、という映画だった。ジュリー(沢田研二)が悪役に挑戦したということで話題にもなった。
ここでの太陽は銀白色に冷たく光る危険極まりないものだが、我が家の太陽は明るく安全だ。厚めの皮を剥くと、肌色の薄皮に囲まれた瑞々しい橙色の果肉が覗く。薄い皮を筋に沿ってはがし、甘酸っぱい香りの飛沫を浴びながら、より明るく濃く見え果肉を露にする。なんと綺麗な色なのだろう。太陽の粒子がびっしり寄せ集まっている感がある。
ひとくち、含む。
ほどよい酸っぱさとその後から追ってくる甘さ。
南国の光の粒を、今、いただいた。