
冷えた袋入りの生うどんの上にかけられたミートソースを、である。
毎日あのコッペパンに飽きていた子供の自分には新鮮な味覚だった。
料理に興味を持たず、外食もほとんどしなかったわが家だったため、もしかしたら、初めてのミート味だったのかも知れない。
自分はアルマイトの食器でコッペパンと脱脂粉乳を飲食していた時代の者だから、ちょっと目新しい食べ物は、とりあえずはおいしく感じた気がする。しかしコッペパンは一度もおいしいと感じたことはなく、いつも残してはランドセルに押し込み、そのまま忘れてしまって、何日後かには、カラカラコチコチになったパンが鞄から発見されるということがよくあった。
ただ、漫画家の小林よしのりさんなんかが書いているけれど、大変評判がよろしくなかった脱脂粉乳は、嫌いではなかった。当時牛乳は貴重品であり、脱脂粉乳とはいえ牛乳に近いものだし、その上軽く甘みが加えられていたため、不味いとは思わなかった。
不思議に感じるのは、給食でうどんはあっても、スパゲティ・ミートソースを食べた記憶がないこと。
おそらく当時の技術ではスパゲティを生の状態で保存できなかったからなのだろうと思う。(喫茶店に限らず、食堂などでも茹で上げの店は少なく、ほとんどが油をまぜて保存していた時代である)
このうどんシリーズ。カレースープ、あんかけや中華スープ風のものも、上にかけられていたものがあった気がする。が、さすがの自分にもうまかったという記憶は、ない。
特にカレーうどん。当時を知らない世代は、カレースープは特にカレーうどんと同じなんだからおいしいだろう、と思うかも知れないけれど、実は違う。当時の給食のカレーは大量に小麦粉が混ぜられていて、、このうどんの上にかけるカレースープは、これを水でといた程度のものであり、現在のようにうどんつゆとカレーをあわせたようなものではなかったので、当然、味も推して知るべし。シチューなども、当時はそこそこうまいと思って食べてはいたが、今はきっと食べられたものではないだろう。
逆にうまかったと思えるものがある。それはコッペパンを油で揚げて砂糖をまぶした揚げパンで(かすかにシナモンの香りがしたような気もするが、こちらは定かではない)、中のパンはいつものコッペパンだったが、それでもおいしいと思った。
先生が
「こういうパンだったら、みんなおいしいと思うのだろうか?おいしいと思う人は手を挙げて」
と訊いたので、自分は勇んで手を上げたが、なんと手を上げたのは自分ひとり。みんなには大しておいしいものではなかったのだ。ちょっとショックだったのを覚えている。
今“ミートうどん”で検索してみると、スタイリッシュでうまそうな“ミートうどん”が何種類も紹介されている。記憶のものより格段にうまい“ミートうどん”を食べてみるか、と思う昨今である。
(写真はアメブロ『だしのある暮らしumamikaori』さんから引用させていただきました。)