
全く情報を得ないで見たものだから、カンの曲が5曲も挿入されているとは知らず、非常に驚いた。
「Don't Turn the Light on, Leave Me Alone」
「Mary, Mary So Contrary」
「Bring Me Coffee or Tea」
「She Brings the Rain 」
「Deadlock」
の5曲がそう。
ダモ鈴木、マルコム・ムーニー在籍時。CAN初期の作品ばかりだ。
トラン・アン・ユン監督が気に入っていたものなのか、それとも誰か関係者によるサジェスチョンによるものかどうか、図り難い。
というのは、『青いパパイヤの香り』『夏至』という瑞々しい映画を撮ってきた監督が、
かなりひねくれたサウンドのカンを気に入っていたとは考えにくいからだ。
それにこの頃のカン・サウンドを知るには年齢的にも若すぎる(1962年生まれ)。
しかも挿入されているのは学生運動とか時代背景を覘かせるシーンにぶつ切り的に合わせているのみだ。
だから、図りかねるのだ。
とはいえ、ここまで沢山のわが最愛のカンの楽曲を映画の中で紹介してくれていたのは嬉しい。

緑役の水原希子はいい役どころだったと思うが、「女優というよりモデルさんだな」と思った。調べてみると、全くその通りだった。最近モデルで女優もやる、という人が多いようだ。容姿はもちろん育ちや立ち居振る舞いの良さは光るがそれ以上でも以下でもないという人ばかりなので、きちんと演じ分け得る女優さんをきちんと発掘してもらいたいというのが正直なところでもある。女優一筋に日々磨いている若手は沢山居る筈である。ここで映画関係者の努力不足に苦言を呈しておく。(偉そうだ!)

風景描写は見事である。日本は東南アジアの気候の延長線上にあるのだと感じもした。男女がさまざまな愛情表現を示すのも愉しめた。では、何が?
考えれば考えるほど、出てこない。あるといえば、ほかで色のついた俳優が主演をしていたということだけだ。思えば、トラン・アン・ユン監督作の出演者は知らない俳優ばかりである。その全く知らない人々の演技を何の先入観も持たずに観て、人生や物語や自然や歌や異国情緒をもその作品から感じていたのだ。
そうだ、トラン・アン・ユン監督は未知の国の象徴であったのだ。その人がいきなり自分の国へ来て、自分の国の俳優たちを使って、自分たちの言葉で映画を作ってしまったのだ。自分はそれを違和感として認知してしまったのだろう。これは自分の中の問題であったのだ。
実は、自分はこの映画を見ることで、自らに課した禁忌を犯したことになる。
自分は、村上春樹という作家に、これまでほとんど触れてこなかった。あの『羊をめぐる冒険』を小脇に抱えて歩くブンガク少女たちの姿を見ていながらも、一度もその本を手に取ったことはない。その後もテレビで見かけたり、書店で目にする機会は非常に多くなっていたが、それでも、自分は村上春樹を避けてきた。何故か。
それは、いつかは村上春樹という作家を先入観なく読んでやろう、と思っていたからだ。何故そこまで思い込んだのか、今となってはわからなくなってしまったが、それだけ意識させられる作家である、ということなのだろう。もう30年にはなるタブーであった。
それが、今回映画を観たことで、解けてしまった。それも全くの不注意であった。実は『ノルウェイの森』原作が村上春樹だと、すっかり忘れていたのだ。「ビートルズだったなぁ」位の意識しか持っていなかったのである。まったく、迂闊であった。
もう既に年貢の納め時は過ぎていた感じもするが、これから、村上春樹とどう向き合うか、考ねばならなくなった。(本日のサブタイトルは“先入観??”)