若気の至りというべき事件を思いつくまま記しておこうと思う。
中学の頃、 遠藤周作さんの『狐狸庵』シリーズをよく読んでいた。当時は「沈黙」「死海のほとり」の遠藤周作さんより、シモネタ有りのユーモリストとしての狐狸庵先生が好きだったという、平々凡々の中学生であった訳である。
当時はネスカフェのCMでも違いのわかる男としてテレビでも人気を獲得していた遠藤周作さん。国民的人気者であった訳であります。
そんな自分に或る欲望を抱かせるきっかけが訪れる。『狐狸庵vsマンボウ』の刊行である。実はこの本の扉には両作家へのファンレターが写真掲載されており、どくとるマンボウこと北杜夫さんの住所がばっちり写っていたのである。これを見た自分には、遠藤周作さんにファンレターを送りたいという欲望がむくむくと湧き起り、そのためにまず、「どくとるマンボウ航海記」「船乗りクプクプの冒険」しか読んだことのない北杜夫さんにファンレターを送り、遠藤周作さんの住所を聞き出そうと思ったのである。手紙は即座に出され、数週後、律儀な北さんから返事のはがきが到着。そこには遠藤周作さんの住所が書き込まれていたのである。

 このはがき、今もファイルの中に取り置いている筈だが、例によって見つからないため、紹介できず、スマソ。(発見したら写真Upシマソ)

 で、即座にこの住所に熱烈ファンレターを送付。内容は、狐狸庵先生得意のシモネタ、というか、糞尿に関する記載が多かったと思ふ。記憶に残って居るのは、自分は狐狸庵先生の本を読む時は、汲み取り式の便槽に紐で2~3日吊るし、しっかり臭いを沁み込ませてから拝読するのを日課としてゐる。というような記述をしたことである。
 今思うと失礼極まりない“ファンレター”であった訳だが、当時の自分は、キタナイ話が好きな狐狸庵先生なら、解ってくれるに違いない。と思っていたのかも知れない。オメデタイ男である。
 当然返事は来ず、翌年頃、『狐狸庵vsマンボウ Part2』が刊行された。中身を読むと以下のようなことが書かれてあったと思う。
「最近の若い人たちは礼儀を知らない。わざわざ失礼極まりない、読むに耐えない内容のものを平気で送ってくる。」(狐狸庵先生)「私の所には、前作に住所が載ってしまったために、わんさと手紙が来てしまった。その多くには狐狸庵先生の住所を教えてくれというのがあったので、葉書でお知らせした。」
 というもの。

 「両方とも俺ぢゃん。俺って最低ぢゃん。」
 と一瞬恐縮した中坊の自分ガアリマシタ。

 というお話。当然、恥ずべきエピソードであるが、まあ、面白ければ何でもいいので、ここに掲載することとせり。礼儀知らずの中坊だった自分が、戦後を代表する作家を激怒させる。というお話。めでたしめでたし。