他人の日記を読む愉しみ

だめっしょ！ひとの日記勝手に読んだら！！

・・・こんな声が聞こえてきそうですが、
まあまあ、合法な方法があるんです。
作家などが書き残したものが、後の世に発表される、アレですな。

正直、文豪の日記を読むのがこんなに面白いとは思っていませんでした。
今読んでいるのは、永井荷風の「断腸亭日乗」。
これがめちゃくちゃ面白い。
何が面白いって、作家本人の本音が書き込まれているのもさりながら、
当時の風俗・習慣、そして事件等がリアルに生々しく書き込まれているからです。

特に目を引いたのが以下の日記。
昭和五年(1930)
『八月二十日。晴天。溽暑(じょくしょ)殆忍ぶべからず。哺下山児を訪ふ。稲川屋の主人来りし故日のくるるを待ち牛門の田原屋に飲む。この日谷崎潤氏の書に接す。あまりに可笑しければ次に記す。

拝啓。炎暑之候尊堂益御清栄奉慶賀候。
陳者(のぶれば)、我ら三人この度合議を以て千代ハ潤一郎と離別致し、春夫と結婚致す事と相成、潤一郎娘鮎子ハ母と同居致すべく、
素より双方交際の儀ハ従前の通につき右御諒承の上一層の御厚誼を賜たく、何れ相当仲人を立て御披露に可及候へども不取敢以寸楮（とりあえずすんちよをもつて）御通知申上候。敬具。昭和五年八月
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　谷崎潤一郎
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　千代
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　佐藤春夫
永井荷風殿

なほ小生は当分旅行致べく不在中留守宅ハ春夫一家に托し候間この旨申し添へ候。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　谷崎潤一郎』

　これぞ、世に知られた谷崎潤一郎の妻を佐藤春夫が譲り受けた世に『小田原事件』と呼ばれる細君譲渡事件。それの文士友人等に郵送された手紙の内容なのです。いやあ、こんな形で改めてその文面を知るとは思っていなかったから、思わずコーフンしてしまいました。

　この記事以外にも相当面白いことが記載されているので、またここで紹介しようと思っています。

摘録断腸亭日乗〈上〉 (岩波文庫)/永井荷風