『スカイ・クロラ』を三度見た。
そして、三夜、うなされた。
哀しい作品ではあるが、決して怖い類の映画ではない。

それでも、何故か、魘された。

川井憲次氏の音楽が朗々と流れる中、
“キルドレ”達が穏やかな口調で
自分に語りかけてくる。
「あなたは、キルドレですか?」
そんな夢を、一晩中、ずっと見続けていたやうな気がする。

“キルドレ”とは、クローン技術によって
作り出された、新人類 なのだらうか?
それとも、脳みそを移し変えられた
フランケンシュタイン的人造人間なのか?

このやうな思考の結果、映画が悪夢へと変化したのであらうか。

$旧聞逍遙 驚いたのは戦闘機の形だ。
 ジェットではなく、プロペラ式である。
 注目すべきは機体後部にプロペラ、機首付近に小翼を配した“前翼型 であること。
日本海軍が終戦まで開発を続けていた「震電」に似ている。
おそらく押井守監督は「震電」をモデルに、より改良を加え、アニメ上で“完成”させたものだらう。
 太平洋戦争末期、その高性能からB29迎撃の切り札と目されながら、間に合わなかった幻の名機「震電」をアニメ上で復活実現させた押井守という人は、やはり只者ではない。
押井守、畏るべし。

$旧聞逍遙
 印象的なシーンがある。
“キルドレ”騎乗の戦闘機が墜落した現場でのシーン。
「かわいそうに」と同情する一般市民の老女に対して、
いつもクールな女性司令官クサナギ・スイトが激昂する。

「“可哀想”なんかじゃない。
可哀想なんかじゃない。
同情なんかで、アイツを侮辱するな!」

 どきり、とさせられた。
 この言葉は、いわゆる“平和ボケ”に陥っているわれわれに対しても、とても厳しい。
われわれは、今の自分たちの立場とイデオロギーだけで、過去の人々を斟酌してはいないか?
 そんなことまで、考えさせられた。

 それにしても、ここに登場する人物たちのきれいな語り口はなんだらう。
 最近自分が使う汚い言葉遣いが、非常に恥ずかしく思えてくる。
 翌日から、自分も静かに語ってみやう。
 こうは思ったものの、家族を前に5分で頓挫してしまった。

 現実は時に、空しい。

$旧聞逍遙


いつも通る道でも、違うところを踏んで歩くことができる。
いつも通る道だからって、景色は同じじゃない。

それだけでは、いけないのか?
それだけのことだから、いけないのか。

いつも通る道だからって、景色は同じじゃない。
それだけじゃ、いけないのか?



 良心的な映画は、派手で話題性のあるテーマソングを挿入しない。
そういう点でもこの映画は信頼できる。
と思う。


「震電」を記録した貴重な動画。


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