$旧聞逍遙 フランス版ポスター  1970年フランス映画。
原題は『 MAISNE NOUS DELIVERZ PAS DU MAL/DON'T DELIVER US FROM EVIL』
 最近のメジャー大作にゲップも出ないワタクシメがめっけた映画は少しエロティックで、ちょっと危ない。


 密かに「身も心もサタンに捧げる」と誓い、罪を犯すことが使命と考えている少女アンヌが、よき理解者のロールと繰り広げる思春期少女の残酷劇。

  1954年の『ポーリン・パーカーとジュリエット・ヒューム』事件をモチーフにしているといわれる。まるでゲームのように罪の意識もなく楽しげに母親を殺害してしまったというニュージーランドで実際に起きた事件なのだが、夢想家のふたりが、現実を現実ととらえず、何の良心の呵責も感じずに犯行に至るという部分がまさにこの映画と通じる所だ。
さらに言えばポーリンとジュリエットはレスビアンであったということだが、映画のアンヌとロールはそこまでは描かれていないものの、かすかな香りを振りまいている部分は映画のそこかしこにもある。

$旧聞逍遙-英語版ポスター さて、主役のアンヌを演じたジャンヌ・グーピル。劇中ヌードも披露しているが、ちょっと小太りというか、崩れてきているような印象もある。思春期のアンバランスな感じを体言しているのかも知れない。
 それでもグーピルは十分魅力的と言えるが、相棒役のロールを演じたカトリーヌ・ヴァジュネールのほうがよほど少女らしい雰囲気と体型を併せ持っている。自分はというと、当然ヴァジュネールに軍配を挙げるが、ヴァジュネールが映画出演したのは本作のみ。早くに結婚したのかな。

 ともあれ、このロートレアモン「マルドロールの歌」を愛す夢見がちでコケティッシュな魅力の二人が、お遊び気分でいけないイタズラを繰り返し、果ては殺人まで犯してしまう。当然警察が動き出し、精神的に追い詰められた二人は衝撃的な幕引きを演じる。というのがストーリー。

 注目するのは劇中に薫り立つ文学性である。先に記したロートレアモンもそうだが、タイトルにもあるように、ボードレールの「悪の華」が最後をまさに華々しく彩っている。二人が学校の発表会で読み上げた3作品である。


『哀れな若者の嘆き』


若者は家に帰ると 頭を抱えた
学問の詰まった豊かな脳みそ
狂気が流れる 
防壁が必要だ 穴を掘れ
防壁が必要だ 穴を掘れ

主人が家に帰ると 旋律を聞いた
夜に泣くピアノ
古びた旋律 探してみる
追い出される 穴を掘れ
追い出される 穴を掘れ

若者は家に帰ると 鼻を魂に刺した
苦悩がにおう
甘き魂
炎の立たない油
外にうずまく夜 穴を掘れ
外にうずまく夜 穴を掘れ

苦悩にまみれた若者が
ナイフを見つける
鞘に入った贈り物
狙いを定める
女より鋭く
神よ 許したまえ 穴を掘れ
神よ 許したまえ 穴を掘れ

墓堀りが家に帰ると
美しい魂を見た
今では希少な美しさ

眠れよ魂
死んだ方が幸せ 穴を掘れ 
死んだ方が幸せ 穴を掘れ



『恋人たちの死』

かすかな香りの寝台
墓穴のような長いす
棚には不思議な花々
美しい空の下で咲く
われ先にと燃え尽きる
我らの心は二つの炎
二重の光を映す
二枚の鏡

バラ色と神秘の青の夕暮れに
私たちは稲妻を交わす
別れを帯びた むせび声
そして天使が戸を開く
燃え尽きた炎を生き返らせてくれる



『旅』

死よ 老船長よ
錨を上げるときだ!
重苦しい日々からの脱出
海や空が黒くても
我らの心は光に満ちている

毒をもって魂に活力を
我らの探求に喜びを与える
地獄でも天国でも構わない
新しきものを探し続ける






 フランスでは映画は脚本が事前検閲されるそうで、内容の非道徳性から当然の如く上映禁止となり、資金調達が困難となったジョエル・セリアは自腹・友人からの借金で金を工面して製作したのが本作という。当時プロといえるのは全スタッフでカメラのマルセル・コンブだけだったそうだ。しかし、まさにこれこそが奇跡といえるもので、どんなにすばらしい脚本であっても、撮影も素人では見るに耐えないものになっていたのに違いない。映画製作の流れなどの教えを乞うこともできたことだろうし、これがしっかりとした作品として完成する要因となり、結局40年を経て再認識されるに至ったと思える。
 監督・脚本のジョエル・セリアはこれが処女作だが、日本公開されたのは本作(1972年)のみでその後4作ほど製作されたようだがいずれも未公開。きっとシュルリアリスティックな文学的作品を撮っていたものと推察するが、さて。

$旧聞逍遙

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