きのう、郵便局へ寄った時のこと。
何か、郵便局に近づけば近づくほど、トイレの臭いが漂ってくる。
そしてそれは自転車置き場で最高濃度となっていた。
便所の臭気の濃縮エキスを鼻先で嗅がさせられているようだった。
そこには、自転車留めのパイプに腰掛けながら携帯メールを見ている一人の男が居た。
年恰好は20代後半。ホームレスさんとか、そういう感じじゃない。
やや皺っぽいが、グレイのポロシャツに同系色のコットンパンツを着ており、
ひねては見えるが、学生さんとしても通用しそうな普通の出で立ちだ。
だがこの臭いは強烈で、自転車に鍵をかける時間さえ惜しい程である。
私は息を止めながら鍵をかけ、駆け足で入り口へと向かった。
しかし、建物の中にも若干臭気が漂っている。仕方なく呼吸量を少なくする半呼吸法(なんだそりゃ)をしながら大急ぎで用事を済まし、外では呼吸を止めて鍵を解除、数十メートル過ぎたあたりで
「ぷふぁあ~っ」
と息を吐いたが、この時点でもまだ漂っている。
これは凄い。
キミをわが人生の臭気放散ナンバーワンに認定した!感動した!
とココロの中で叫んだ。

 臭気といえば、最近行かなくなったが、某コミック専門店の臭いも凄かった。
いや、コミック店が凄いのではない。そこの客が凄かった。
行けば必ずといってよいほど、この臭気に当たった。
その臭いは尿と精液と汗がねっとり絡み合い渦を巻いているような臭いだ。
臭いの先にはいつも二十歳前後の若者の姿があった。
毎度、年代は同じなのだが、同一人物ではない。
コミック好きはこの臭気を放出する生き物なのか・・・・
と考えてしまった。
いや、もちろん全員ではない。誤解されませんよう。
でも、昨日の臭気に比べたら、コミック店の臭いは“屁”みたいなものであった。
とはいえ、こちらも長い時間我慢できるものではない。
できれば、改善をお願いしたい。
 今も時々この軽いヤツが、某古本専門店コミック・コーナーで嗅ぐことができる。

 これとちょっと異質でしつこい臭気がある。
敢えて言えば生ごみ系臭気である。
 以前、何度か私のところを訪ねてくる若者が居た。聡明で素朴な漫画好きだったが、いつも生ごみのような臭気を発していた。彼が帰った後、家中の窓を開け、全室スプレーしなければならないほどしつこくいやな臭いだった。それでもなぜ彼を自分が家に受け入れていたかというと、彼は臭気を除くととてもよい人間であったからである。
 ある日、彼は諸星大二郎の漫画「海神記」が読みたいと言った。「海神記」は当時絶版で、古書店では少し値段の張る本だったから、自分が持っていたものを貸してあげた。
 彼は約束どおり一週間後に返してくれた。生ごみ臭気のおまけを付けて。
 ページをめくる度に漏れ出す生ごみ臭気に、何度も嘔吐しそうになった。
 これはたまらんと、昼間は屋外に天日干しした。しかし、臭気は半分くらいにしか減少しない。
仕方がないから、柑橘系コロンのミストを、本を置いた部屋に振りまいた。これを何日か繰り返したが、ページの奥まで浸透しない。しかも、コロンの臭いと生ごみの臭いが化学反応を起こして新たな臭気に生まれ変わった感さえある。
 ・・・・結局、「海神記」は某古書店に二束三文で売られてしまった・・・・。
 部屋の臭いはすぐ何とかなるものだが、本の臭気はそうはいかないものだと初めて知った時であった。

海神記 上 (光文社コミック叢書“シグナル” 6)/諸星 大二郎

この本に臭気はありません。大丈夫です。
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海神記[下] (光文社コミック叢書〈SIGNAL〉 (0007))/諸星 大二郎

てゆうか、こんな話で紹介されてもね・・・・・/諸星 大二郎[多分談]
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