ヴィリ+テレプシコーラ

 弐瓶勉氏のバイオメガ BIOMEGA」5巻が出ている筈だからと、近所の蔦屋へ寄った。
 ここには入荷していなかったが、代わりに山岸凉子さんの新作2冊『ヴィリ』『テレプシコーラ/舞姫 第2部1』を見つけた。『テレプシコーラ』は近日中に再会すると思っていたが、『ヴィリ』の方は全く知らすに居たので、嬉しい驚きといえる。今回はその『ヴィリ』についてちょっとだけ書いてみたい。(山岸作品の紹介は何回目だろう?!)

 山岸凉子さんは、テーマは普遍といえるゆるぎないものを持っている作家だが、モチーフは毎度様々で、懐の深さ、ボキャブラリーの広さを感じさせられるのだが、今回は珍しく『テレプシコーラ』と同じバレエをモチーフに書いている。『テレプシコーラ』を書いている内に培われた知識や勘を維持したかったのか、『テレプシコーラ』を描いてゆく上で、『テレプシコーラ』では納めきれない新たなイメージが浮かんできたということなのかも知れない。

 20ページほど読むと、予感が頭を掠めた。山岸作品を数多く堪能してきた読者ならきっと自分と同じだろう。これはきっと愛憎劇になるぞ。そしてきっとつらい悲劇になるぞ と…。

 予感は当たる。

 このような作品で山岸さんはいつも、主人公に一番厳しい試練を投げかける。そしてやはり主人公は破局へ向けて落ちてゆく。
 ただ、最近の山岸さんが昔と違うところは、細い一筋ではあるけれど、希望の糸を残すところだ。そこがかつての山岸作品の切れ味と比較して物足りなさを感じさせる一方で、人間としての成熟と作品の奥深さをも感じさせられることとなっている。

 山岸さんがバレエの世界に惹かれるのは分かる気がする。人間の愛憎を描くバレエ作品に込められた作者の思いと、それを理解しようとし、自分の物として踊り表現しようとする人々との心や立場の繋がりが、時として怨念の連鎖の如くに重い暗黒世界に人間を貶めてしまうことがあるということを、山岸さんは熟知しているのだろう。そしてそれこそが、『テレプシコーラ』にも通底しているテーマであり、山岸凉子さんの本領発揮の場所となる訳だ。

 『ヴィリ』は、今流行(はやり)のコトバにするならば『テレプシコーラ』から生まれたスピン・オフ作品であり、「ジ・アザー・サイド・オブ・テレプシコーラ」といってよいだろう。それにつけても、ここまでバレエの世界に入り込んでいる山岸さん(近年はご自身もバレエを楽しんでおられるそうだ)の『テレプシコーラ』に賭ける並々ならぬ心積もりをも感じさせられることとなり、第二部の展開がますます楽しみになってきた。