1970年頃のPink Floyd
[1970年前後のピンク・フロイド。左端がRichard Wright]

 15日ピンク・フロイドのキーボーディスト:リチャード・ライトが亡くなったと16日の朝日新聞夕刊で知った。

ピンク・フロイドのリチャード・ライト氏死去

 フロイドを取り巻くビッグ・ビジネスの中でもマイペースを保ち、最後まで物静かな男という印象だった。ロジャー・ウォータースとデヴィッド・ギルモアの暗闘にも一定の距離を保ちつづけたまま、ほとんど語らずに逝ってしまった。

 リック・ライトといえば、自分のなかではロック・キーボードの魅力を一番最初に感じさせてくれた人物である。たまたま姉が見ていたNHKの「ヤング・ミュージック・ショー」が目に入り、釘付けとなった。ピンク・フロイドの「ライヴ・アット・ポンペイ」である。銅鑼を叩きまくるロジャーや、デイヴのスライド・ギターもよかったが、(スティックを飛ばしてしまい、ちょっと焦りながらもリズムを刻み続けるニックに少しは笑った)「Echoes」でオルガンとエフェクター等を駆使して不可思議な音色を紡ぎつづけるリックの姿に、雷に打たれたようになってしまった。岡本太郎ぢゃないが「なんだこれは!」という驚きだった。
 まだまだ自分はガキだったので、突き詰めてフロイドやロックを聞き始めるのはもう少し先の話になるのだが、それにしても少年であった自分が本格的にロックに惹かれるきっかけとなったのは間違いがない。

 1977年「アニマルズ」発表後からピンク・フロイド・メンバーのソロアルバムが次々とリリースされるようになる。リック・ライトも'78年「ウェット・ドリーム」というアルバムを発表している。タイトルからエロチックなイメージが浮かぶが、内容はむしろ内省的でクリーンなサウンドという印象だった。何度もターンテーブルに乗せる名作アルバムとは云い難かったが、'73年「狂気」以来、聴衆の更なる要望に応えるように、実験的かつ重厚なサウンドを目指しつづけたバンドと相対するようなシンプルな音である。
 特に'75年「炎~あなたがここにいてほしい~」では、気候や温度湿度の影響で音色やチューニングが変わってしまうという当時のシンセサイザーの多重録音を駆使した手の込んだサウンドだった訳だが、当然ながらメンバーはその分かなり神経をすり減らしたことだろう。その上持ち前の正義感からか社会や政治批判に転じたロジャーと付き合う上での気苦労も重なってきたであろうことは想像に難くない。
Wet Dream そこで面白いのは四人が四人とも、ソロアルバムはピンク・フロイド的サウンドではなく、ほとんどがシンプル指向の音に向かったことだ。もともとピンク・フロイドは「原子心母」、「エコーズ」、「シャイン・オン・ユー・クレイジー・ダイアモンド」といった10分を超える大作の一方、ヒットを狙えるポップな小品もリリースできる柔軟なバンドだったが、70年代中期以降はそういった魅力が薄れてきていた。時代の要求やバンドへの過度の期待が相当重圧になってきていたことだろう。
 こういった状況に反発するかの如く、リック・ライトのソロアルバムは原点回帰のアルバムとなったのだろうと思える訳である。

 初期フロイドの珠玉といってよい小品も集めたベスト・アルバム『ピンク・フロイドの道 Relics』に、リックの手による「PAINTBOX」という曲がある。まるで子供がおもちゃのピアノを弾いているようなチャーミングなメロディが気に入っている。1967年の曲だが、この「ウェット・ドリーム」に通じるシンプルさがある。

 リックへの追悼と敬意を込めて、歌詞とへたくそ承知で訳詩を載せてみる。訳詞はライナーノーツの対訳を大いに参考とさせていただいたが、自分なりの解釈も多く盛り込んだ。原曲とともにご鑑賞頂けたら幸いである。
relics


PAINTBOX


Must let her have
Too much to drink
Sitting in the proud person, any folks
Playing to rose
Trying to impress the feeling of any tear
I had another drink

Don't you wish to spend that evening
They all turn with their friends
Playing their game
There's no reason I should have you
Far away
Away - away - away - away - away
Getting up, I feel as if I'm remembering this scene before

I openned the door
To an empty room
Then I forget

Turn the fine rings
And someone speaks
She was very much like to go
Out to a show
So what can I do
To conquer what to say
She sees through anyway
Away - away - away - away - away

How was front door
Hi girl
Traffic's moving roads slow
Arriving late
Then she waits
Looking kind of angry
As crossed as she can be
Be - a - be - a - be - a - be - a - be
Getting up, I feel as if I'm remembering this scene before

I openned the door
To an empty room
Then I forget


絵の具箱

プライド高くて
 おそろしく退屈なお仲間と談笑しつつ
 手持ち無沙汰にバラを弄んでる
 あの娘に
 浴びせる程
 ドリンクをあげるのさ
ボクはと云えば
 あの娘を想って
 もう一杯飲むだけだけど

夜を共にした仲なのに
 簡単にチェンジしちゃう
 それが奴らの淋しいゲームさ
君が遠く居ることに
 ボクは我慢できない
遠く とおく トオク トク トク
 ボク、以前この場面見た気がする

ボクはからっぽのドアを開け
 そして
全てを忘れてしまう

退屈凌ぎにリッチなリングをくるくるしながら
 誰かが喋ってる
彼女はとても
 ショーを見たがっているんだと
だからってボクが
 どうしたらいいっていうのさ
どうせ彼女は全て分ってしまうのにね
 どうせ どおせ どせ どせ

玄関のドアは気に入ったかい
 お嬢さぁ~ん
車はのろのろ動き
 予定時間に遅刻ぎみ
彼女は待ち続けるのさ
 当惑し
 やがて怒りに震えながらも
 震え 降る ふる
 これって ドッペルゲンガー?ボク知ってるこのシーン

ボクはからっぽのドアを開け
 そして
全てを忘れてしまう


リック・ライトという人は、プログレ界では珍しくメロトロンをほとんど使用しなかったキーボード・プレイヤーということでも特筆すべき人だったのかも知れない。
さようなら、リック。


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