The Moody Blues with Denny Laine 「ムーディー・ブルースはプログレだ。」と思っている人は少なくない。実際私より年長者がトップに挙げたこともあるし(この人は年上であるというだけで無知な人ではあったが)、シンフォニックで壮大なテーマを構築するそのサウンドはプログレ的である。しかし、ムーディーズ本人達が70年代初期には「自分達はプログレッシヴ・ロック・バンドではない」と否定する発言をしている。その真意は定かではないが、後にポール・マッカートニーのウイングスに参加するデニー・レーン在籍時はR&Bをベースにした上質なポピュラー・ソングを発表していたバンドであり、デニー・レーンが脱退し、新ギタリストとベーシストが入れ替わってバンドのイニシアチブが移っても、その核となるべきテイストは保ってきていたといういことなのだろう。(写真は“プログレ”ではない頃、デニーレーン在籍時の初期ムーディ・ブルース。一番手前が我が心の師:マイケル・ピンダー。一番奥に控えめなのがデニー・レーン。目つきの悪いのがグレアム・エッジ。 Music Parade 1965年6月号)
 実際彼等のアルバムを聞いていると、その親しみやすいメロディに思わず口ずさんだり、いっしょにコーラスしてしまったりしてしまう。これは思春期のやわらかい脳みそに刷り込まれたモノへの反応なのかも知れないが、まあ、それだけポップな味付けの曲が多いということだ。
Question Of Balance 画像の「クエッション・オブ・バランス」はムーディーズの中でも好きなアルバムの1枚で、壮大かつ親しみやすい楽曲の集大成的アルバムで、何年ぶりかで聞き込んだ今ももちろん曲に合わせて歌ってしまった。それにつけても、うさぎと亀の童話を曲にした「Tortoise And The Hare」。こんなとりとめもないことを超感動的に盛り上げるムーディーズとは一体・・・・・。ツェッペリンの「Living Loving Maid」、CSN&Yの「Our House」に勝るとも劣らない。
 ご存知の通り、ムーディーズはメロトロンのマエストロともいえるマイケル・ピンダーが在籍していたバンドとして有名で、彼の味付けがすなわち『プログレ的』と言われる所以であろう。ピンダーのピアノやメロトロン・アレンジによって壮大なイメージを感じることができるのだ。
 ムーディーズのメンバーは器用である。いや、小器用と言うべきか。ほとんどのメンバーが多くの楽器を使用してレコーディングしている。だが、どのメンバーも秀でたテクニックを有しているわけではない。だからライヴでの再現性となるとかなり危ういものとなってしまう。このことは私の大学の先輩(注:先ほどの年長者ではない)が1974年1月来日時のステージを見て「あいつらの演奏はひどかった」と語っていたが、その模様は77年リリースされた『Caught Live+5』で聞くことが出来る。(ただ、音源は1969年ローヤル・アルバート・ホールでのものなので、若干時代は遡るが)ジャスティン・ヘイワードのかかり気味のヴォーカルとギター・ワークが全てをぶち壊していて、レイ・トーマスとジョン・ロッジは存在感なし。グレアム・エッジのドラムは堅実だが特に光る部分はなし。一人マイク・ピンダーのキーボードワークのみが輝きを放っているといった内容なのだ。特に、安定した電源が供給されないと音程すら決められないメロトロンをライヴでここまで操った(しかも60年代に!)ピンダーの技量には頭が下がった。
 先輩は「キーボードのマイク・ピンダーがMCを務め、キーボート演奏のみならずギターも演奏していてカッコ良かった。」とも語り、それ以来私はピンダーのファンとなったノダ。それはともかく・・・・
 ‘70年代、NHK-FMでは午後4時10分から6時まで「軽音楽をあなたに」という番組があり、ここで新譜や注目アーティストのアルバムをまるまるオンエアしてくれていた。そのため自分の好きなアーティストの時には学校を休んでエアチェックしていたものだが、なんとムーディーズの「Days of Future Passed」から「 Seventh Sojourn」までの全曲を1週間かけてまるまるオンエアしたことがあった。夏休み期間だったと思うけれど、あれはすごかった。確か冬に再放送かなんかしたもんだから「NHK-FMはプログレばかり放送してる」という苦情が寄せられたらしい。
 ムーディズを嫌いだという人の声には「あの仰々しい説教臭さ」を挙げる人がいた。確かにその通りで、壮大な宇宙をイメージさせるためか、かなり凝ったイントロやエンディングを迎えるアルバムが多い。これこそがムーディーズの醍醐味とも言えるのだが、言われて仕方がないと思える部分もある。ただ、そのサウンドとは裏腹に歌われていることは結構わかりやすいことが多い。歌詞カードを見ると、割と簡単な歌詞で歌われていることがわかる。(関係ないが、この“伝統”は'80年代のULTRAVOX!に受け継がれることとなる?!)
レターサイズ歌詞カード この歌詞カード。日本での70年代再発版は写真のような洒落たレターサイズのものだった。山本安見訳・立川直樹解説の名コンビもよかった。これもまたムーディーズ作品の魅力だったといえよう。