PFM Chocolate Kings この6月にリリースされたビクターの『紙ジャケ80!』シリーズからP.F.M.の「Chocolate Kings」を買ってみた。1,500円と廉価ながらK2 HD MASTERINGで音が非常によい。高温のキレはもとより、低温がズンズン響いてきて非常に心地よいのだ。

このアルバム。実は自分がP.F.M.で初めて購入したアルバムだった。とはいってもP.F.M.初体験ではない。クラスメートのハラグチ君にこれまでの英語版アルバムは全て借りて聴いていた。当時お金のない身分のワレワレは、お互いのレコードを貸し借りして自身の音楽的見識を深めていった。今みたいに情報はなく、レコードは非常に高かった時代である。放送局に知り合いなどがいない限り、自分達の手持ちのレコードと数少ない音楽雑誌と音楽番組が音楽情報の全てだったといってよい。そんな時代である。
 しかして、このレコード貸し借り。扱いの丁寧な友人には喜んで貸し出ししたが、粗野な人に貸すのは非常に勇気が要ることだった。レコード針を何年も取り替えず、針先に溜まった埃を気にせず再生している奴には、なるべくカセット・テープに録音してそれを渡すということで勘弁してもらっていた。しかもただ渡すだけでなく、曲目はもちろんパーソネルまで手書きで添えるという親切さであった。これのおかげか、意味は分からなくとも難しい綴りの英単語や人物の名前などは今でも割と簡単に記入することができる。
 話戻って、ハラグチ君であるが、彼は非常に細やかな心遣いの男なので喜んで貸し出した友人である。当時のハラグチ君は4チャンネル用のヘッドホンを持っていたりして(現在まで実物を見たのはハラグチ君のものだけである。ピンク・フロイドの『原始心母』や『狂気』などに4チャンネル仕様のアルバムが出ていて、新鮮な音の広がりを楽しんだものである)、かなりなマニアだった。
 そのハラグチ君。ちょっと神経質というか、耳が良かったというか、それを象徴するような事件があった。
 P.F.M.の前作である「P.F.M.COOK」はライヴ・アルバムであるため、当時野外ライヴを行うには機器の調子によって若干のノイズが入ることは間々あったものであるが、ハラグチ君はこのノイズが許せず、レコード屋へ持ってゆき「ノイズが出るので取り替えて欲しい」と申し出た。このアルバムのほとんどにマイクやミキサーが拾ったノイズが入っているのだが、これを視聴しながら店員相手にやんやとやり合った訳である。
 自分は「これは機器のノイズなのではないか?」と思いながらやりとりを聞いていたが、当時はまだ自分でアルバムを持っていなかったので確信が持てず、黙っているしかなかった。結局店員が折れ、ふて腐れた感じで首を傾げながらレコードを新品のと取り替えて渡してきた。あの時の女子店員の顔は今でも思い出すことができる。
 家で聞き直したハラグチ君は、新しいレコードでも同様にノイズがあることを知り、後日「店員さんに悪いことをした」と反省の弁を述べていた。

 ちょっと脇道に逸れた。話を「Chocolate Kings」に戻そう。今回発売された廉価盤。しっかりした紙ジャケット仕様なのだが、そのかわり解説と歌詞はなし。いいでしょうよそれ位。最近解説を書いているものの中には個人的なことばかり書いて肝心のアルバムの中身について書かないモノが少なくない。こんなモノに金をかける位なら解説なしで価格安くした方が絶対良いに決まっている
 でもちょっと解説は読んでみたいという方。32年前の解説だが、きちんと書かれているし、当時の熱気を感じるという面でもよいと思うので(次作「JET LAG」で解説者はMauro Paganiが脱退し、Gregory Blochが新加入したのを知らず「今作もマウロ・パガーニのヴァイオリンは…」と書いてしまい、恥をかいたそうだが、まあ、情報の少ない時代の証言者ということも出来よう)転載した。読んでくらさい。
 ちなみに歌詞はコチラのサイトにあります。


 ベルナルド・ランゼッティを加え6人組で1975年11月に初来日を果したPFMは、パワフルで熱気に満ちたコンサートを展開してくれた。ステージ上に見たPFMは全身でロックしているまさしく本物のロック・バンド。胸をときめかせながら聞いたオープニング・ナンバー「セレブレイション」が、今も鮮かによみがえって来る。
 その日本でのステージでも何曲か披露されたPFMの最新作『チョコレート・キングズ』は、ダイナモのようなヴォーカルのベルナルド・ランゼッティを迎え、’75年6月から7月にかけてミラノのリコルディ・スタジオでレコーディングされた。イタリアでは世界に先駆け11月にヌメロ・ウノから発売され、ベスト・セラーズを記録中である。このアルバムの評判はすこぶる良く、イタリアの音楽誌のレヴューでは絶対最上級の形容詞で賞賛されている。全曲、フランコ・ムッシーダとマウロ・パガーニが書き、フラヴィオ・プレモーリが「フロム・アンダー」で共作、その曲と「チョコレート・キングズ」でメンバーではないマーヴァ・ジャン・マロウが詞を補っている。プロデュースは例によってPFMとクラウディオ・ファビである。
 このアルバムはPFMの通算6枚目にあたり、はっとするほど美しいメロディに溢れている。PFMならではの変幻自在できらめく曲の展開には全く無駄がなく、構成もしっかりしており、曲の流れも自然だ。さらに、このアルバムには今までに見られない活気がみなぎっている。フランコ・ムッシーダのギターも、フラヴィオ・プレモーリのキーボードも、また他のメンバー全てが実力をフルに発揮し、ヴォルテージの高い演奏を聞かせている。新加入のベルナルド・ランゼッティは、'73年にPFMのプロデュースでデビュー・アルバムを発表したアクア・フラジーレというグループのリード・ヴォーカリストだった。アクア・フラジーレは2枚のアルバムを発表し'75年解散したが、その裏にはPFMがどうしてもベルナルドの強力なヴォーカルを必要とした経緯があった。生のステージに接した人なら、小柄ながらエネルギッシュでパワフルなその声に驚かれたに違いない。そして、ベルナルドはアクア・フラジーレにいた頃からずっと英語で歌い続けてきており、英語で歌うことに何の不自然もない。また、ここでは曲作りに参加していないが、アクア・フラジーレの曲は全て書いていることも今後楽しみなことのひとつだ。
 『チョコレート・キングズ』は全て英語の詞で、自らの手でそれを書いている。その点について、ヌメロ・ウノから出たイタリア版に載っているPFMのメッセージの要約を伝えておこう。「このアルバムの詞を英語で書いたのは、よその国の人たちにもぼくたちの言わんとすることを正確にイメージしてもらいたかったからなんだ。ぼくたちはイタリア語のヴァージョンも吹き込もうかと話し合ったんだが、そうすると言葉の響きとかリズムにどうしても無理が生じてしまう。だから、詞は英語のままにしておいて、その意味を説明するために訳詞をここに載せようと決めたんだ」ここに、PFMがもうピート・シンフィールドの力を借りなくても十分やってゆけるというPFM自身の地平を確立した自信がうかがえる。それとともに英語で歌うことが世界を目指す条件であるとの計算も働いているようだ。
 アルバム・タイトルにもなっている「チョコレート・キングズ」には、アメリカに対する痛烈な皮肉が込められているように思える。イタリアは第2次大戦で敗れ、アメリカがイタリアの解放と再建のためにやって来た。そして、チョコレートやキャンディーをばらまき、シャーリー・テンプル(かつての名子役、女優、現在は政治家)に象徴されるアメリカ風の良き文化を持ち込み、全ての面で自分たちの正しさを信じて疑わなかった。だが、その内実はアメリカの大資本がイタリアの経済を支配し独占したことでしかなかった。これは、戦後のイタリアの政治、経済、社会に目を向ければ自ずとわかることだ。PFMの来日時の「イタリアのロック・グループは政治と関りを持たざるをえない状況にある」との発言を考えると、歌詞の中の「チョコレートの王様たちは死に、もうチョコレートの天国のために君の人生を無益に使うことはない」の意味がわかるだろう。イタリア盤のアルバム・ジャケット(イタリア盤のジャケットは、デザインがちがい、太ったマリリン・モンロー風の女性が描がかれている)に描かれている疲れた娼婦のような太った女は、ここで歌われ失意のうちに国へ帰って行くビッグ・ファット・ママにほかならない。しかし、そのママに大きな憐れみを抱くPFMの暖かさは人間的であるし、イタリア的でもある。2曲目の「ハーレクイン」とは道化役のことで、仮面をつけ、まだら色の服を着、手には杖を持ちイタリアの古典民衆劇の登場人物である。
 現在、イタリアではPFMをはじめとするロック・グループが意欲的な活動を行なっている。PFMで一番控え目な男、べ一スのヤン・パリトック・エラルド・ジヴァスが在籍したグループのアレア。PFMとイタリア各地でコンサートを行ない力をつけたアルティ・アンド・メスティエリ。力強いヴォーカリスト、フランチェスコ・ディ・ジャコモを擁し既に紹介されているバンコ等々。それらの常に中心に位置し、指針となっているのがPFMであり、彼らがひとつの潮流となって世界へ出るのもそう遠い日のことではないだろう。ひとまわり大きくなり、逞しくなったPFMに乾杯しようではないか。『チョコレート・キングズ』を聞きながら…。
[76年2月山岸伸一]


 おまけにこのアルバムのイタリア版、解説にも書いてある「Big Fat Mama」のジャケットも掲載しようと思っていたが、相変わらずの管理の悪さ。見つからないので「P.F.M.COOK」のメンバー・プロフィールを掲載する。文面でおわかりと思うが、当時のワーナー・パイオニアではP.F.M.をアイドル路線で売り込もうとしていたことが伺える内容で、非常に面白いのである。
PFM Profile

今調べてみたらアメブロ関連には「Chocolate Kings」1,500円版がない。すみませんが、AMAZONなどで検索してみてくだせい。


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