
監督であるディアーヌ・ベルトランの、クールで静謐な映像美と、女性の肉体描写力、特に脚に対する美意識は感嘆に値する。多分男の監督ではあそこまで接近し切れなかったのではないかと思える足先と靴への肉薄振りがすごい。思わずパトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』を観た時と同様の不思議な恍惚感に包まれてしまって我ながら驚いた。ルコントは最近息切れ気味のようだけれど、才媛ディアーヌ・ベルトランの登場はその穴を埋めて余りあるものだろう。
ひややかにさらりと耳から脳へと伝わり、身体へまとわりつかないままに風景の中へと解け入ってしまうようなベス・ギボンスの音楽もいい。Portisheadのノイズが描くブルーな模様もよかったが、それを除いて更に深い青に出会えた気がする。海辺の風景に彼女のサウンドは非常にマッチしている。
岩岡ヒサエさんのコミック『ゆめの底』を読んだ。「思い」を缶の中へ閉じこめておくコンビニが舞台になっており、発想が『薬指の標本』と似ている。映画を見終えて偶然手に取った漫画だったので妙なシンクロニシティーだな、と少し驚いている。当初キャラクターに抵抗感があったが、読み進めるにつれ、この絵柄でなければ駄目。という感覚になってしまった。絵と内容ともに不思議な味わいのある作品だ。

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