昨年NHKで放送された〝私のこだわり人物伝 澁澤龍彦 眼の宇宙 第2回 エロス〟で画家の金子國義 氏が面白い話をしていたので、ここに一部紹介したい。

1.金子國義 29歳で澁澤龍彦と出会う

 絵描きとか、そういうの全然関係なしで、好きで、こう、書いてたんですよ。その頃書いたのが、あの、なんていうのかな、プリミティヴな、感じの絵っての、ナイーヴ?

[筆者注:プリミティヴ=Primitive Art (1)19世紀末に流行となった非西欧の原始・未開美術、(2)遠近法と解剖学の知識を持たないルネサンス以前の西欧美術、(3)アカデミックな教育を受けていない美術表現(=ナイーヴ・アート)の三つに対してしばしば混在して使用されている。金子國義氏の作品の場合、(3)が該当する。ちなみにシュルレアリスムの提唱者アンドレ・ブルトンは、自由に描いた子供の絵こそ優れたシュルレアリスム・アートであると述べている。]

夏休み
 澁澤さんと最初に会った時は印象的でしたね。まあ、あのー、小柄でサングラスをかけた。あのー、四谷の左門町にお見えになったのが、最初ですね。
 なんか、入って来たと同時にすぐ居間だったんで、コートも脱がずにそのまんま、ずっと、ずうっと絵に見入ってましたよ。3時間くらいかな。ま 2時間か3時間か4時間か分かんないけど、ずぅーっと、こう、見入って。そいで、まあ、で、澁澤さんがお見えになった時には、油絵の、その、えーと、まあ、下手な絵なんだけど、プリミティヴ といおうか。そしたら、澁澤さんが家に来た時に
Balthus the guitar lesson「プリミティヴかバルテュスか」
 って云ったんで、バルテュス Balthusってどんな人かなーと思って。その、『ギターのレッスン』っていうのがあって、
「えーっ、こんな絵もあるんだ」
と思って。

[筆者注:この時澁澤龍彦は『O嬢の物語』の挿絵を金子國義に依頼しようと考えていた。]

2.金子國義 澁澤龍彦に画家として認められる

 まわりの友達が、「澁澤龍彦ってすごいよ。」って。アレが、耳に入って来て、えー、特に四谷シモン。
シモンが何もしないで遊んでる頃。
「あんたねぇ~、澁澤さんがね、日本人で初めて認めたのが、あんたなんだから、大変なことだよ」
 って言って、僕もさ、なんか
「大変なことになっちゃったのか知ら」
とか思ったりして。


[筆者注:そして金子國義は『O嬢の物語』の挿絵を1枚澁澤龍彦の元へ持参した。]

O嬢の物語
 書いて1枚持って行った時に、それ見て、もう、なんか、
「あーん、皺んなっちゃう」
っていう感じでしたよ。

[筆者注:紙を両手で強く握っている素振り]
ガッて見て、
「いい。   いい。   」って。


花咲く乙女たち


3.金子國義 エロスを語る

 綺麗なものは何でも好きっていうのは、うち見れば分かる通り。汚いものは嫌っ。
 そこら辺で歩いてる、もうもうもう、おばさん とか、もう、あれは…

[筆者注:ここでインタビュー切られる。何を語っていたかは想像すると非常に楽しい。]

 下向いて歩いてますよ。僕。下向いて歩いているからね、こう、あのー、雑草が綺麗だっていうのがね。
「あー、きれいだなー」
と思ってね。

 だってエロスは綺麗じゃなけりゃエロスんならないでしょ。汚いものをアレしても。
 美しくアレしたその先にあるものじゃないですか、エロスというのは。
 澁澤さんの訳でエロスの格を知りましたね。バタイユを読んだ時に。


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