先月28日。遊び友達のミノルさんが死んだ。
自殺だった。通夜に出席した友人は親戚から直接聞き出すことができなかったが、出席者達の噂で縊死だったと聞いたそうだ。年間32,000人の自殺者がいるという日本。ミノルさんはその2,454人目になってしまっていたのだ。
原因については判然としない。地方都市の中小企業の社長だったミノルさん。厳しい状況だったことは間違いないだろうけれど、さほどひどい経営状態でもなかったらしい。近年、新しい妻を娶って幸せそうにしていたという。
自分とは仕事関連で接することは一切なかった人で、あくまでも遊び仲間、飲み仲間だった。おっとり、のんびりした感じで、人をあったかく包み込むような雰囲気を持っていた。常に明るい人だった。が、ごくごく稀にネガティヴなことをぼそっと云うことはあった。その時は全く気にしなかったが、今となってはそれが気になって仕方がない。
希望が持てない、先が見えない時代。
フツーの明るい人たちにも、闇が迫っている のか。
こう絶望的に考えていた。
今月19日の朝。ミノルさんの夢を見た。
自分は走行中の自動車の後部座席で横になって寝ていたが、ミノルさんの声で目覚めた。
「いくら対向車がないからって、ちょっとスピード出し過ぎかなあ。」
ミノルさんは助手席の友人(どうも自分と共通の友人らしいが、誰かは判然としない)に訊ねた。その友人は
「そうですよ。今120キロです。ちょっと出し過ぎですよ。」
と答える。
「そうだよなあ、じゃあ80キロまで落とすよ」
と言ってミノルさんはスピードをダウンする。
そんなやりとりを自分は横になりながら聞いている。
暫くは80キロくらいで走っていたが、
「やっぱ、トロイなあ。もちょっと早くしていい?100キロでもいいでしょ?他に車も警察もいないしさぁ。」
「しょうがないすねぇ~」
と前の二人はやりとりし、また自動車はスピードアップしだした。
その時やおら自分はがばと起き出し、ミノルさんに向かって
「スピード違反は駄目じゃないすか。捕まりますよ。それにしてもミノルさん。自殺したなんて嘘だったんですね。自由になりたくて、狂言したんですね。言ってくださいよ。やだなぁ。」
といいながら自分はミノルさんの頭を後ろからぺしぺし叩きながら喜んでいる。
という所で目が覚めた。
何か意味があるような気がして、少し調べてみた。
すると、驚くべき事がわかった。
2月19日は死後22日目にあたり、チベットの「死者の書」によると「再生のバルド」に入った初日にあたるのだ。
これを知って自分は少し安堵した。
自殺者の霊は自縛霊となってしまったり、永遠に自殺し続けたりして、成仏できにくいというのが通説だが、ミノルさんの場合は幸いにも輪廻転生のステップを確実に踏んでいるということなのだ。と自分は解釈することにした。
とすると粋で茶目っ気もあったミノルさんのこと。
『敦盛』を決め込んだのに違いない。
思へばこの世は常の住み家にあらず。
草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし。
きんこくに花を詠じ、栄花は先つて無常の風に誘はるる。
南楼の月を弄ぶ輩も月に先つて有為の雲にかくれり。
人間五十年、下天のうちを比ぶれば夢幻の如くなり。
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。
そう、織田信長が好んで詠じたという歌だ。
ミノルさんは、まさに50歳だった。

自殺だった。通夜に出席した友人は親戚から直接聞き出すことができなかったが、出席者達の噂で縊死だったと聞いたそうだ。年間32,000人の自殺者がいるという日本。ミノルさんはその2,454人目になってしまっていたのだ。
原因については判然としない。地方都市の中小企業の社長だったミノルさん。厳しい状況だったことは間違いないだろうけれど、さほどひどい経営状態でもなかったらしい。近年、新しい妻を娶って幸せそうにしていたという。
自分とは仕事関連で接することは一切なかった人で、あくまでも遊び仲間、飲み仲間だった。おっとり、のんびりした感じで、人をあったかく包み込むような雰囲気を持っていた。常に明るい人だった。が、ごくごく稀にネガティヴなことをぼそっと云うことはあった。その時は全く気にしなかったが、今となってはそれが気になって仕方がない。
希望が持てない、先が見えない時代。
フツーの明るい人たちにも、闇が迫っている のか。
こう絶望的に考えていた。
今月19日の朝。ミノルさんの夢を見た。
自分は走行中の自動車の後部座席で横になって寝ていたが、ミノルさんの声で目覚めた。
「いくら対向車がないからって、ちょっとスピード出し過ぎかなあ。」
ミノルさんは助手席の友人(どうも自分と共通の友人らしいが、誰かは判然としない)に訊ねた。その友人は
「そうですよ。今120キロです。ちょっと出し過ぎですよ。」
と答える。
「そうだよなあ、じゃあ80キロまで落とすよ」
と言ってミノルさんはスピードをダウンする。
そんなやりとりを自分は横になりながら聞いている。
暫くは80キロくらいで走っていたが、
「やっぱ、トロイなあ。もちょっと早くしていい?100キロでもいいでしょ?他に車も警察もいないしさぁ。」
「しょうがないすねぇ~」
と前の二人はやりとりし、また自動車はスピードアップしだした。
その時やおら自分はがばと起き出し、ミノルさんに向かって
「スピード違反は駄目じゃないすか。捕まりますよ。それにしてもミノルさん。自殺したなんて嘘だったんですね。自由になりたくて、狂言したんですね。言ってくださいよ。やだなぁ。」
といいながら自分はミノルさんの頭を後ろからぺしぺし叩きながら喜んでいる。
という所で目が覚めた。
何か意味があるような気がして、少し調べてみた。
すると、驚くべき事がわかった。
2月19日は死後22日目にあたり、チベットの「死者の書」によると「再生のバルド」に入った初日にあたるのだ。
これを知って自分は少し安堵した。
自殺者の霊は自縛霊となってしまったり、永遠に自殺し続けたりして、成仏できにくいというのが通説だが、ミノルさんの場合は幸いにも輪廻転生のステップを確実に踏んでいるということなのだ。と自分は解釈することにした。
とすると粋で茶目っ気もあったミノルさんのこと。
『敦盛』を決め込んだのに違いない。
思へばこの世は常の住み家にあらず。
草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし。
きんこくに花を詠じ、栄花は先つて無常の風に誘はるる。
南楼の月を弄ぶ輩も月に先つて有為の雲にかくれり。
人間五十年、下天のうちを比ぶれば夢幻の如くなり。
一度生を享け、滅せぬもののあるべきか。
そう、織田信長が好んで詠じたという歌だ。
ミノルさんは、まさに50歳だった。
