Mandaraband 1975年突然リリースされたマンダラバンドのデビュー・アルバム。
当時はNHK-FM夜の番組で全曲オンエア。全くの無名バンドの驚愕サウンドにノックアウト寸前となり、放送の翌日フラフラになってレコード屋へ向かった。
 音楽雑誌「ミュージック・ライフ」や「音楽専科」でも大きく取り上げられていたが、その仰々しいタイトルと、なんといっても名の知れたメンバーが一人も居ないということ。そして帯に踊っていた「イエスのリック・ウェイクマンが何年もかかって為したことを彼らはいきなり成し遂げた。」というような過剰な謳い文句への反発(帯はなくしてしまったのでうろ覚えだが内容はそう間違ってはいないと思う。ライナーノーツをかの“たかみひろし”さんが担当しているので、多分帯の方もたかみさんの仕業でしょう。彼は時々その音楽が彼のツボにはまったら、評論家が持つべき冷静さを失い、過剰で刺激的な文句を連発する悪い癖があった。)もあり、手を伸ばすのは躊躇っていたのだ。
 
 タイトル曲は1950年代中国がチベットを侵略したことをテーマにしたもので、チベット語で歌われている。ダライ・ラマ14世が亡命生活を続けている、今現在も大きな政治問題となっているテーマがロック・バンドによって選択されたということは、非常に大きな意味があったのかも知れない。自分もこのレコードがきっかけでチベットで起きていることを知った。
 しかし、ロック・ミュージックとしては、政治的イデオロギーを露出するということは必ずしも成功と結びつきはしない。日本を除いて大したヒットとはならず、今もCDは廃盤状態である。

 ただし、内容は'75年当時のプログレど真ん中といえる壮大でドラマティックな名作。B面の4曲もプログレ・ハードの王道といえる作品で、音楽性の面からでも、テクニカルな面からでも全曲楽しめるアルバムだろう。

●SIDE A
1. OM MANI PADME HUM曼陀羅組曲 (20:56)

●SIDE B
l. DETERMINATION終焉 (5:50)
2. SONG FOR A KING 国王に捧げし歌 (5:21)
3. ROOF OF THE WORLDパミールの烽火(4:30)
4. LOOKING IN黎明(4:44)


○David Durant vocals
○Asbley Mulford : electric & acoustic guitar
○John Stimpson : bass, acoustic 12 string guitar
○Tony Cresswell : drums, timpani, tubular bells
○Vic Emerson : piano,organ, Moog, clavinet, Fender rhodes, claviolines,glockenspiel, strings and choir arrangement
○The London Chorale choir
○John Alcock Producer
○Tim Friese - Greene Engineer 
[今気づいたけど、エンジニアが“もう一人のTALK TALK”、ティム・フリーズ・グリーンだ。]

 バンドはこのアルバムを作るためのみに集ったようなものなので、メンバーはすぐに散会。マンダラバンド名義の「The Eye Of Wender(魔石ヴェンダー)」が’78年にリリースされてはいるが、メンバーは全く異なり、ムーディー・ブルースのジャスティン・ヘイワードやバークレイ・ジェームス・ハーヴェスト、10ccのメンバーなどが曲ごとに参加したポップなシンフォニック・ロックとなった。1stとは全く異なる内容なので注意が必要だ。

[蛇足]
 90年代にケストレルがCD化されたとき、ライナーノーツに「マンダラバンドにうつつを抜かしている内に重要なバンドを聞き逃していた。」みたいな内容が書かれていたが、今でもどうも気になって仕様がない。確かにマンダラバンドのコマーシャル露出は当時結構なものだったとは思うし、それに比べてケストレスはほとんど紹介すらされなかったけれど、その時代に、その年齢の感性で聞いて良いと思っていたものを否定までするこたないだろ、と思う。なんだかロックよりジャズが、ジャズよりクラシックが上等な音楽だ。と考えている人間に似てカッコ悪いぞ。
 ま、井伏鱒二さんのように晩年になって処女作「山椒魚」の内容を書き替えてしまった。なんて人もいるけどさ。

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