ソフト・マシーンが好きだ。カール・ジェンキンスが実質的リーダーだった後期マシーンも好きだが、ケヴィン・エヤーズとロバート・ワイアットがヴォーカルを取っていた初期マシーンも好きだ。そして、この実質上のファースト・アルバム=Jet-Propelled Photographsは私の大のお気に入りなのだ。
 ここでのマシーンはジャズじゃない。ほとんどが3分程度のポップなロックを演っている。しかも儚く清々しく透明感のあるチューンばかりだ。特に心惹かれるのはドラムを叩きながら歌い上げるロバート・ワイアットのかすれ気味の歌声。ジョン・アンダーソンの歌声が“天使の歌声”だとするなら、ワイアットは“堕天使”のそれだ。どこかに陰がありためらいがある。ロバート・ワイアットのマシーンでのベスト・チューンはThirdの“Moon In June”だと思っているが、それに次ぐ魅力ある楽曲がこのアルバムには目白押しだ。
First Machine

 このLPレコードは、高2か高3の秋。玉光堂という新盤屋さんで購入した。“Bundles 収束”から遡ってゆく私の収集であったが、当時この幻のファーストとセカンドまでは中古盤屋さんでごく稀に見かける程度だった。しかもべらぼうに高い。だから当時の私は今日こそこの旧譜が再リリースされているのではないか、と毎日のように玉光堂へ通っていた。そんなある秋の日。突然ぽん、とこのアルバムが棚の中に紛れていた。その時から若干の日焼けがあり、角の歪みなどもあり、使用感を感じるものだったが私は躊躇せずこれを購入した。
 そして、家でこのアルバムを聴きながらちょっと空想したのである。このLP、本当はレコード店の店員が持っていたものだったんじゃないか、と。徐々に消えてゆくソフト・マシーンのアルバムに気づいたある店員が、次はこのアルバムに行き着くと考え、レコード棚に入れたのではないか。とか、倉庫の奥に眠っていたこのLPを偶然に発見し、販売することにしただけだ。とか。どっかのヘソまがりのコレクターが万引きの逆にこのLPを売り場に紛れ込ませて悦に入っているのでは、とか。くだらないかつありえない事ばかりである。そしてこんなことを思い出している内に、昔の我が家のリスニングルームの情景をも想い出してしまい、懐かしい感慨にふけってしまった。
  
 余談だけれど、このアルバムにすごく近い感覚を有した作品がある。EBTGのベン・ワットとロバート・ワイアット Ben Watt & Robert Wyattが1982年にコラボレートした“Summer into Winter”というミニ・アルバムがそれ。“Walter and John” と“Aquamarine” は胸にしみこんでくるような切ない傑曲だ。この曲はベンのソロアルバム『 North Marine Drive ノース・マリン・ドライヴ』にボーナス・トラックとして収録されている。