今回は1970年のアメリカ映画 『CANDY キャンディ』をご紹介。数年前、女性誌を中心に再注目を浴びた作品ですからご存じの方も多いと思います。カラフルなファッションとライトでキュートな主人公“キャンディ”が現代の世相にマッチしたのでしょう。主演エヴァ・オーリンのコケティッシュでキュートかつセクシーな魅力は今現在でも新鮮です。
キャンディ
2003年リイシューされた原作本[角川書店刊]。確か当時の角川文庫も持っていたと思って探してみましたが、出てきませんでした。残念。

 内容的には、宇宙からやってきた純真無垢なキャンディが、地上の薄汚れた男どもに翻弄されてゆくという、ちょっとエッチな内容の映画です。まあ、普通といえばフツーのラヴ・コメディーといえるものなのですが、イントロのシーンは、当時としてはかなり凝ったSFXだったと思います。いわゆる宇宙をイメージするものなのですが、全く違和感がありません。ただのラヴコメにこの力の入れようはただごとではありません。
 この映画の見所はやはり、さりげなく豪華出演陣を起用していることでしょう。ウオルター・マッソー、ジェームス・コバーン、シャルル・アズナブール、マーロン・ブランド、リチャード・バートン、ジョーン・ヒューストンそして エルザ・マルティネリ等が出てくるのですが、ビートルズ解散直後のリンゴ・スターが出演しているのにも驚きです。
 最初の方で高校で講義をする詩人マクフィスト( リチャード・バートン)が出てきますが(彼の居る場所に爽やかな風が吹いているのは笑えます)、このモデルはおそらく60年代ポエトリー・リーディング(詩人が自作の詩を朗読するアート形態)のトップ・スターといわれたディラン・トマスでしょう。彼があれだけ酒と女に弱かったかわかりませんが、一詩人が自作を朗読し、それを陶酔しながら聞く、ということが文化人のステータスのひとつであったという当時の風習が見て取れて興味深いです。ちなみに、ディラン・トマスのポエトリー・リーディングは何枚かレコードとして出され、今もiPodなどで聞くこともできるようです。(ボブ・ディランの“ディラン”はこのディラン・トマスから頂いたというのは有名なお話。ディラン・トマスが当時どれだけの巨人であったか。…やや脱線。)
 それにしてもこのカラフルな時代は、60年代サイケデリック・ムーヴメントをしっかり踏襲したものなのでしょう。制作・公開当時あのジミ・ヘンドリクスやドアーズのジム・モリスンがまだ生きていたのだ、と考えると感慨もひとしおです。何せ軍がカリフォルニア上空からLSDの粉末を散布している。なんてまことしやかに囁かれた時代なのですから。まあ、影ではいろいろあったとしても、表面的には“シアワセな時代”を装っていられた時代を反映した映画。といえるのかも知れません。

 ちなみにバーズやステッペンウルフの曲がカッコイイです。音楽監督は70年代後半フュージョン界の立役者:デイヴ・グルーシン。バーズのロジャー・マッギンとの共作もあります。