ツィゴイネルワイゼン1
チケット、もちょっと綺麗に破いて欲しかったぁ。


 百鬼圓先生の『サラサーテの盤 [内田百間集成 (4)]』が原作の映画「ツィゴイネルワイゼン」('80年)。
 一部モチーフは百鬼圓先生の原作によっているけれども、それをめいっぱい膨らませて、極彩色の摩訶不思議迷宮世界を築いた鈴木清順監督の手腕は素晴らしい。細かいエピソードをオムニバスのように散りばめた手法は寺山修司の書を捨てよ町へ出よう('71年)、田園に死す('74年)が先にあり、同じ土俗的な匂いを醸している。ただ、寺山作品が強いメッセージを放っているのに対し、鈴木作品はそれをオブラートに包みかつ、より洒落た感じに仕上げている。だからこのコムズカシソウな映画に若い女性が多数足を運び、今日へと続くレトロ・ブームの礎を築いた(と私は思っている)のだろう。また、寺山作品のJ・A・シーザーとは異なる前衛的な民族音楽をはめ込んだ河内紀の技量も高く評価したい。原田芳雄扮する中砂が荒野で「とんぷく」にラリルレロになるシーンのパーカッションの響きは忘れられない。

ツィゴイネルワイゼン2
こちらは中味を全く反映してないチラシであります


 「ツィゴイネルワイゼン」は文芸作とばかり思っていたが、ホラーとしても楽しめるようだ。というのは先日、妻にビデオを見せたところ、「怖い!これ、ホラーじゃないのッ。」と怒られたのだ。そういえばイメージの暗部をくすぐるシーンがたっぷりだ。今の季節に良いかも知れません。

 不思議な話を書かせたら右に出る者がない百鬼圓先生ですが、この百鬼圓先生の師匠:夏目漱石も「夢十夜」というコワイ作品を残しています。これを機会に文章でも楽しんでみてはいかがですか?

 最後に、私はこの映画で酒の飲みっぷりの良さ、食べ物の食いっぷりの良さを学んでしまいました。青地役の藤田敏八と原田芳雄がうまそうに飲み食いするんです。観たあと、堪らず居酒屋に走ったっけなあ。