こわれゆく女

 ジョン・カサヴェテス監督作「こわれゆく女」 (1975年アメリカ映画) を見た。
 ジョン・カサヴェテスは1980年代にインディーズ・ムーヴィーの異色監督として知られた存在だったが、私は「グロリア」を見ただけで、他の作品はとうとう見ずにいてしまった。「グロリア」は主演のジーナ・ローランズはアカデミー主演女優賞も受賞した文句なしに面白く、評価も高い作品だったが、私はこの作品を見てジョン・カサヴェテスは娯楽作品の監督なんだな。と勝手に決めつけてしまっていたのだ。今から思うとこれは失敗だった。それが今回ふとDVDが目にとまり、パッケージの解説を読んで「これは」と見る気になった訳だ。
 妻を非常に愛している水道工=ピーター・フォークと、その愛に必死で応えようとする妻=ジーナ・ローランズ。通常であれば平々凡々な家庭を築いていく二人であったろうが、妻が神経症を患っているのがちょっと違っていた。人が集まると興奮を抑えきれなくなってしまい、突拍子もないことをやってしまう妻。そのことを痛いほど分かっていながら、愛するが故、結果として妻の興奮を助長させるような行動をとってしまう旦那。そしてそれに巻き込まれて凍り固まる友人知人。リアリズムとはこういうことを言うのだろうという映像がぐんぐん胸に迫ってくる。特にジーナ・ローランズの正に鬼気迫る演技は見どころだ。所々軽い笑いはあるが、ちょっとつらい映画である。ただ、最期、ささやかなハッピー・エンドとなるのは、きっとジョン・カサヴェテスは根が明るいアメリカ人だからなのだろう。