船 Bateaux

 北国に住んでいると、どうしても冬場は海とは縁遠くしたくなってしまう。
自分の住む所は自動車で1時間も走ると海が見える所まで行けるのだが、どうも、あの灰色で荒れ狂う海を見ると体だけでなく心まで益々寒々としてしまうからだ。
 しかしその分、日差しが強く、ぽかぽかしてくる春を感じると、碧く穏やかな海が恋しくなってくる。こういう時は多少肌寒くても車を飛ばしてしまう。北国では春先の海はまだまだ人が居ないから、ひとりになりたい時には最適だ。

 ニコラ・ド・スタールの絵はやはり海がいい。彼の描く海からはいつも春先穏やかな海を感じる。今年の冬も大変厳しい寒さだったが、日差しが日に日に高くなってくると、海を恋しく思う気持ちが徐々に募ってくる今時分、スタールの絵を眺めたくなる。アトリエから彼自身が描いた海の中へ飛び込んだスタールの絵を。
もしかしたら絵画の中を泳ぐスタールが見えやしないか、と。


 「画家ニコラ・ド・スタールは、昨夜アンティーブのアパートのバルコニーから8メートルほど下の街路に身を投げて自殺した。即死だった」[1955年3月17日。]

 P.S.
 このブログを書いていて、なんと、まともなスタールの本が全然出版されていないことに驚いた。外国のサイトですが、何点か作品が見られます。
artnet:Nicholas de Stael