BAMBI


 カネコアツシの漫画は常に映像的、というより映画的だ。読み進める内に頭の中でエンニオ・モリコーネのBGMが鳴ってきてしまう。がんがん無慈悲に人が殺されてゆき、次々と憎らしいキャラクターが登場してくる。それらを撃破してゆく主人公自身も決して社会が愛すべきキャラではない。その内容がコマの流れ方も含めて何となくマカロニ・ウエスタンを思い浮かべてしまうのだ。無機質に思われそうで実はしっとりとした人間的な部分を感じられてくるのも、セルジオ・レオーネのマカロニ・ウエスタンそっくりである。
 ちなみに自分は『荒野の用心棒 』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン-地獄の決斗』が好きである。そして、ここに登場してくる悪役:リー・ヴァン・クリーフ、ジョン・ウェルズ、そしてちょい役ではあったがクラウス・キンスキーが大好きである。クラウス・キンスキーは特に、寺山修司やヘルツォークの作品にも出ているので(これらは必ずしも悪役ではないが)愛着が深い。
 話が少し反れたが、あのマカロニ・ウエスタンの現代日本版がこの『BAMBI バンビ』だと言いたかったのである。自分は生粋のアメリカ西部劇が嫌いだ。そこに開拓者魂だとか、先人の苦労だとか、アメリカ人の正義感だとか、アメリカ人の精神性(というかナショナリズム)を必要以上に折り込みたがるからだ。これは結構暑苦しい。
 マカロニウエスタンもカネコアツシも、そういったものを感じない。感じても必要最低限だ。クールなのである。 そこがいい。
 主人公のバンビ。振り払っても振り払っても鈴木紗理奈を思い浮かべてしまった。目つきと唇のあたりがそっくりなのだと思う。もしかしたらカネコさんのアイドルは鈴木紗理奈なのかも知れない。
 エンターブレインより全7巻で発売。現在絶版とかで、気になった方は古書店でお求めください。