
今年は、成瀬巳喜男監督の生誕100年ということでNHK-BSで彼の作品を放送していたので、名作の呼び声高い『浮雲』と『乱れる』を初めて見た。
初めて、というのには理由がある。
成瀬巳喜男はかつて「小津安二郎は二人いらない」と言われた監督であるということを知っていた為、小津の二番煎じなら見る必要がないな、と常に後回しにしていたのだ。今回特集で連日放送していたので、気まぐれもあって見てみることにしたのだ。そして、正直驚いた。成瀬監督はメロドラマの名手といわれていたが、私が思っていたような甘ったるいものではなく、徹底的にリアルで悲劇的だった。そして、その時代の薫りも強く運んできてくれていた。特にこの“時代の薫り”は私が古い映画を楽しむ上での重要なファクターのひとつだ。これを存分に味合わせてくれるのは、本当に嬉しい。
そして悲劇については、これでもか、という位に悲劇的結末を持ってくる。『浮雲』では主人公を肺炎で死なせてしまうし、『乱れる』では義弟を事故(自殺?)で亡くしてしまう。微かな希望は見受けられる部分もあるが、「このまま終わらせてしまうの?」とこちらが焦ってしまう位だった。この冷徹ともいえる結末をもってくる成瀬監督は、ただものではない。と思ったし、もっと早く注目するべき人だったと後悔した。余りにインパクトが強かった為か、自分は『乱れる』を見た翌晩、夢でこの続きを見てしまった。それはホラー映画になってしまっていたのだが、機会があればここに紹介してみたいと思っている。
成瀬巳喜男という人は、女性を美しく撮るのにも定評のある人だったというが、その通りだと思う。上記2作に出演している高峰秀子は美人だとは思うが表情にヴァリエーションがない。悪く言えば無表情で、自分は良い女優と思ったことは一度もない。しかしこれらの作品では、儚げな女性の美しさを醸し出させることに成功している。これはやはりすごい。気に入ったのは写真の「死に顔」である。愛人に死に化粧をされ、ランプに照らし出された薄幸のゆき子の「死に顔」は本当に美しいと思った。
(写真はgifにすると画質が著しく悪くなるので、jpgのままにしました。小さめの写真となってしまい、残念です。)