ミケランジェロのピエタ

 これはロマン・ロランの「ミケランジェロの生涯」(みすず書房/蛯原徳夫訳)の扉に使われているミケランジェロ製作のサンピエトロの「ピエタ」の写真です。
 マリアの膝に抱かれて横たわるキリストの肌つやが生々しく、死してまだ残るぬくもりさえ伝わってきそうです。哀しみに沈むマリアの表情も透き通るように浮き上がり、よりリアルに迫ってきます。
 ところが実際のこの大理石の彫刻は、やや茶がかっています。(下をクリック)


ミケランジェロ-ピエタ-

 
 (だからといって、もちろんミケランジェロの傑作が大した作品ではないという訳ではありません。むしろここに掲載されている写真がよりこの彫刻の魅力を引き出していると言いたいのです。しかも撮影対象がすばらしいものであるからこそ、写真もよい作品になるということは言わずもがなです。)
 「ミケランジェロの生涯」は昭和33(1958)年に初版が発行されていますから、写真が撮影されたのはそれ以前です(原著は1906(明治39)年刊で、ミケランジェロの肖像画一点が掲載してあるだけだそうですから、この翻訳本発行の折に撮影されたと考えるべきでしょう)。
 よく見ると細かい修正(おそらく手彩色)がなされていると見受けられる部分もあります。印刷技術も今に比べるとまだまだ未熟です。しかし、だからこそ、真にリアルな部分が曖昧になり、美しい部分が引き立つ写真となったのだろうと思います。 おそらく今の技術で撮影してしまうとこうはならないでしょう。これも作り手側の「気迫」の勝利でありましょうか。
 ちなみのこの本、ミケランジェロを偶像的な英雄とは描いておらず、むしろ性格破綻者として描いている部分もあるのです。興味おありの方、ぜひお読みになってみてください。