
長谷川利行は、窮民街にある簡易宿泊所に寝泊まりし、酒場やカフェ、演芸場に立ち寄って描き、作品はすぐに換金して酒を飲むといった状態を続けていたという、かなり破天荒な画家だったそうだ。その激情と純真さにあふれた作風から「日本のゴッホ」とも称されている。
酒に酔って書いているからという訳でもないだろうけれど、長谷川の絵は千変万化の表情を見せている。 贋作が多い作家としても知られているが、そのようなことも一因となっているのだろう。
ひとつの作品に目がとまった。1935(昭和10)年に描かれた『少女』。
恐らく酒場かカフェで顔見知りになったのだろう。酒臭い中年のオヤジが「まあ、いいからいいから。」とか言って部屋にあげ、また「いいからいいから。」とか言ってブラウスをひんむいて座らせたところを素早くガガッと描いたのだろう。そんなオヤジのされるがままになりながら、ぼんやりアンニュイに眺めている少女が見えて来る。なんか、やられる絵である。
(長谷川利行展図録より)