
岡本太郎ブームだそうだ。軽薄なものがお手軽に持て囃されている昨今、ずっしりと存在感のある岡本太郎の作品や生き様に触れることはきっと意味のあることに違いない。
岡本太郎は絵も彫刻も凄いが著作も凄い。十数年前の奇人変人扱いを覚えている方々には「岡本太郎はまともなものを書けっこない」と思っている人もおられるでしょうが、左にあらず。
『今日の芸術』/『アヴァンギャルド芸術』/『沖縄文化論-忘れられた日本』/『日本再発見-芸術風土記』/とどれも面白いです凄いですまともです。
「きっと素晴らしいゴーストライターを雇われていたんですな。」いえ、違いますって!
話変わって、岡本太郎の写実的な具象画がある。
1948年(昭和23)10月11日。 岐阜の疎閉先で急逝した 父一平を描いた1枚のスケッチ。眠るような父の顔を鉛筆一本でさらっと描いている。
岡本太郎は戦争中は軍人の具象的肖像画を多く書かなければならなかったらしい。ピカソ同様岡本太郎は具象もやはり凄いのである。
納棺後の父を描く、少々憔悴した岡本太郎の姿も写真で残っている。いつも『爆発』ばかりしていただけではない人間:岡本太郎の姿が垣間見える。

もう20年近くになるだろう。タモリの「今夜は最高!」にシンディー・ローパーのような格好で出演した時のビデオが我が家のどこかにある筈である。発見次第こちらで披露させていただこう。でも見つからなければ御免!
居並ぷ人々の手前、私はやっと耐えてしずかに合掌すると、紙と鉛筆を用意してもらって死顔をスケッチした。何と柔和な顔だろう。何気なく開かれた唇からはかすかな鼾(いびき)が洩れてくるような気さえする -ああ父よ- 、余リにいたわしくて、私は何度となく筆をとめた。涙がはふり出る。
('96.5.芸術新潮)