ざくろの色


 アルメニア(旧ソ連)生まれの映像美が際立つ映画監督:セルゲイ・パラジャーノフ1971年製作の映画『ざくろの色』を久しぶりに見た。納戸を整理していたら古いタンスの引き出しの中からビデオが出てきて、思わず見入ってしまった。
 最初に見たときは今から約20年前、パラジャーノフが“再発見”され、各地で彼の作品が上映された頃だ。原色の衣裳と民族音楽、そして未知の言語の響きに魅せられたが、18世紀のアルメニアの詩人サヤト・ノヴァの生涯にオマージュを捧げたという内容は正直よくわからなかった。
 20年後それなりの人生経験を積んだ人間が再度鑑賞していかに感じるか(感性の成長を感じることが出来るか)、試すという自分自身への興味もあった訳だが、20年前も今もそう印象は変わらず、感性の成熟も体現はできなかった。宝石の如くに美しい衣裳、歌舞伎や京劇にも似た、観客(この場合はカメラ)の方を意識し或る意味大げさな演技(舞踏)をする役者、素朴で不可思議なメロディーの歌や演奏そして読教、突然の場面転換、(説明的になることを排除するためなのであろう)必要最低限度の翻訳、他民族であるが故の理解できぬ風俗習慣の表現、とこれほどまでに難解な映画であるのに、また見たい、素晴らしい、と思えるのだから本当に不思議である。

 パラジャーノフは1974年、でっちあげでソ連当局に投獄されている。民族色が余りに強い映像に、分離独立を嫌い締め付けを強化していたソ連首脳が恐れをなして逮捕したのだろう。その後も数度逮捕され、この素晴らしい映像作家は長編を4本しか作り得なかったのは非常に残念である。
 映画行政大臣に「とても美しいけれど、わけがわからんよ。」と言われたパラジャーノフはこう答えたと伝えられている。
「心配ご無用。私も自分で作っている映画がさっぱりわからないんですから。」