季節外れの話題から。


今年のゴールデンウィークは、

次女夫婦の暮らす、仙台に行った。

一日目は、山形の温泉に泊まり、

二日目に、孫娘の暮らす家に行ったのだ。


そして、その晩、地元の飲み屋を探し、

僕ら夫婦と、娘婿の三人で、 

一見のそのスナックのドアを開けたのだった。

毎度、ドキドキする瞬間だ。


小さいけど、こぎれいな店で、カウンターの向こうに、50過ぎくらいのママさんが一人いた。


いつしか、僕らは見知らぬ街の見知らぬ店のドアを開けて、見知らぬママとお客、

そこで、お酒呑んで、おしゃべりして、

ヘタな歌、歌って少し名残惜しげにお店を後にすることが、旅の楽しみになっていた。


あまり、自分から、話さないママだった。

若い頃から、宮城県の山間部に育ち、成長と共に、自分の訛りに引け目を感じ、

いつしか、見知らぬ人たちに、無口になってたと語った。

そんなママの、心を開いてもらいたく、

オヤジは、けなげに、問いかけるのだった。


「 好きな 歌い手は? 」

「 中2の頃、聞いてたアーティストは?」


「 ・・家が貧しくて、レコードとか買えなかったから、一人、部屋でラジオを聞いてた。」


「 一緒!一緒! 勉強もせずにオールナイトニッポンとかな! 」


一人、バカテンションの高い、ダンナを冷やかに、見やる女房の視線に気付かぬ振りで・・。


しばらくしてママが

「 NSP とか知ってます?」


やっと、ちょっと開いてきた。


「 う~ん、もちろん! ちょっとクライ感じの・・ 夕暮れ時はさびしそう   なんてのね。」


当時、アリスとか、泉谷しげるとか 聞いてた、オイラだけど、

「 じゃ、ママそれ入れてみて!」

なんて、薄おぼえの NSP、歌ったりして。


ちょっと、喜んでくれたみたい。


 ( なんで、こうなるの?)


いやいや、フルオープンでフルテンションなママなんかより、断然いい。

みちのくのお店の印象にはよく合う。

( 沖縄とかでは、むつかしいかも・・)


そのうち、ママが思い返しながら、十代の頃のこと、ポツリと喋りはじめた。


漫画の読者コーナーとかの、文通相手募集とかに、[ NSP大好き、卓球少女 ] とかで応募して、

滋賀県の男の子から、返信があり、

二年くらい文通が続き、

卓球の試合で名古屋に行った時、

彼が会場に応援に来てくれて、

うれしかった・・


そこで、話は終わり。


ママは、深く記憶の中を巡ってるよう。

無口なママの 十代が重なって見えた。

訛りのままの、つぶやきと、ときめきと、

今では、とるに足りない、後悔 なのか。


ああ。

お互いの顔も知らない 二年間。

そんな、濃密な青春を生きてたんだな。


文通 なんて、

なんて、かけがえのない、時代のことだろう。


時間は、決してさか戻りしない。


峰に降った雨は、谷沢を下り、

谷水を合わせ、渓流を下り、

里の小川を流れ、やがて大河にそそぎ

海へ。


決して、さか登りすることはない。


けれど、  水は、 ひとつなのだ。


同じ星で、同じ今を、同じ水に

想いはせてる ことだろう。


お店出て、歩いて夜の街を帰る時、

「 ママさんに、気を使うんですね! 」

横目の女房。

チクリ、旅の思い出でした。