

























人の成長は早い。けれど、それを自覚していることはなかなかない。小さい頃に通った公園に行ってみると唖然とする。こんなに狭いのかと。小さいのかと。だがしかし、稀にその逆もあるのだ。
「へ?まだあの人形あるの?」
それは私が朝食を食べているときの事。正面に座る祖母との会話だった。
「ああ、あるよ。定期的に干したり洗ったりしてるから今でも綺麗さね」
「ほー。あ、おかわり」
「はいよ」
祖母は私の茶碗を受けとるとご飯をよそってくれる。私が大食らいなわけではなく、茶碗が小さいのだ。私は昔、この家に母と祖父母と住んでいて、その頃から使っている茶碗だ。普通は大きくなるのにあわせて買い直すのかもしれないが、そうなる前に私たち親子は出ていった。私がここに来るのは十年以上ぶりだったりする。となると、捨てられてもおかしくないのだがそこは祖父の教え。
「物は大事にせんといかん。がおじいさんの口癖だったからね」
祖父が亡くなったのは数年前。その時は訳あって私はここに来れなかった。そして、それ以来、祖母は一人ここで暮らしている。一度、母が共に暮らすことを提案したらしいが、先ほどの祖父の教えを理由に断ったらしい。
そんな祖父の教えであるが昔の幼い私には通じなかった。
のどかな場所である祖父母の家といえば聞こえはいいが、実際はただの田舎。同世代の友人も遊び場もない私は一人家で遊ぶことが多かった。そんな私に与えられたのは幼い頃の母のおもちゃである。まぁ悪くはないのだよ。楽しかったし。だけど、やはり古かった。辛うじてあったテレビで見るきらびやかなおもちゃや人形に私は心引かれ、憧れて、ある日、私はおねだりした。しかし、祖父はそれを一蹴。そして、私と祖父は大喧嘩。今でも記憶に残っている。そんな喧嘩に終止符を打ったのが私の祖母だった。
祖母は私に大きなくまのぬいぐるみを買ってくれた。それは大きく幼い私が抱えるのに苦労するレベルだった。当然、祖父は激怒。だが、それ以上に祖母の方が怖かった。今でも記憶に残っている。あれ以来、祖母には逆らわないと心に誓ったものだ。
「そして、そのぬいぐるみがまだある。と」
「そう言ってるじゃないか。はい、ご飯」
「ありがとー」
ご飯を食べ終え、お皿を片付けた私はそのぬいぐるみがある部屋へ行ってみることにした。廊下を曲がって二つ目の襖の部屋。昔、私と母が住まわしてもらった部屋である。
堅い襖を開け、部屋に入る。中には私たちが暮らしていた時の家具がそのまま置いてある。きちんと手入れされているようでほこりひとつ落ちていない。さすが、祖母である。しかし、こうやって久々に来てみるとやはり部屋は狭く感じる。祖母と久々にあったときも思ったが、これが大きくなるということか。
「ん?あれ?」
とそこで私はあることに気づく。そう。ここにあると言われた本命のぬいぐるみが見当たらないのだ。
「おやー?」
場所を間違えたのかもしれない。恐らくつい懐かしくて、ここに足を運んでしまったのだろう。祖母にもう一度、場所を聞かねばと思い。ふと、天井を見上げた。
「・・・」
そういえば、この部屋は天井が異様に高かった。それは大人になった私が今見ても思うレベルである。故に気づかなかった。いや、故に気づいた。というべきであろうか。頭上にあったのは大きな大きなくまの顔。私はこの部屋が狭いと思った。しかし、それは私が大きくなったからだけではなく巨大なくまのぬいぐるみが部屋に置かれていたからであったのだ。
「って、ちょっと待てー!」
「なんね。騒々しい」
「くま、くま、くま、くま」
「ああ、見てきたとね。懐かしかろ?」
「うん。じゃなくて、何?あの大きさ?」
「大きさ?ああ、洗ったり干したりしてたら少しだけ膨らんだみたいさね」
「少し?!」
そこではっと気づく。定期的に干したり洗ったりして、その度に大きくなっているのだとすれば、それは気づかないのも当然かもしれない。そして、それは物を大事にするという祖父の教えだけでなく、私の事を大切に思ってくれてる祖母の想いが現れている証拠だった。
「にしても、この大きさはないでしょ」
私は再びぬいぐるみの部屋に戻ってきた。私は身長ご180ある。普通に男の人を越えるレベルだ。なのに見上げねばならない。これでおわかりいただけるだろう。そして、この目線。幼い頃と同じ気持ちだ。私はふと、昔と同じようにぬいぐるみのお腹に抱きついてみる。幼い頃の私がやっていたように。ぬいぐるみに顔を埋めて見ると、太陽で干された独特の香り。
「懐かしいな」
・・・気がつくと、私は眠りに落ちていた。これもまた昔と同じ。そして、それを見かねた祖母が毛布をかけてくれる。昔から優しい祖母。
私は祖母の優しさに感謝しながらも、再び眠りの世界へ落ちていった。
▼本日限定!ブログスタンプ