将彦は病院の階段を駆け上がり2階に着いた所で
一瞬躊躇った。
幸太はどうしているんだろ?今妻の容態が気になる
この上の階にいけば憲子に会える。
でも憲子に会えばその病室から出ない気がする。
そうすれば幸太はどうなる?一人ぼっちにさせてなんの連絡もしないで
ただ不安にさせるだけだ。
一旦家に戻ってからまた幸太と病院に来るか?
でもこの往復の時間がやけに無駄な気がする
将彦は少し苛々しながら考えた。
「ちっ!」
将彦はポケットから携帯を取り出し自宅に掛けそのまま
3階に上がって行った。
「ただいまぁー」
家の中からは返事がない
日も暮れて家の中は薄暗くシーンとしている
幸太にとって初めてみる光景だ。光の無い家
家に帰れば母親がいるし電気も付いてる
こちらがしゃべらなくても母親から「帰ったら手洗いなさいよ」
とうるさいしつけが返ってくる。
でも今はそれは無い。
幸太は家中の電気を付けきを紛らわした。
そのままリビングのソファーに座りTVのリモコンを手に取りスイッチを入れた。
TVが点くとそのまま音量を上げ静寂だった家の中を騒がしくさせた。
TVはお笑い番組を放送している。
将彦が好きな番組だ。
いつも将彦と幸太はこの番組を観て笑っている。
でも将彦と幸太の笑いのツボが少し違うらしく
将彦が笑っている所で幸太は「どこが面白いの?」
幸太が笑っている所では「まだまだわかってねえなお前は」
と言いやいしながらTV観ていた。
今はただ黙々とそのお笑い番組を観ている。
涙が流れ落ちるのを拭かずただ黙々とTVを観ていた。
ピンポーン
玄関からチャイムが聞える
ピンポーン
また聞える。
幸太はTVを観たまま寝てしまったようだ
二回目のチャイムで跳ね起きて 「誰?」
と玄関の方向を凝視した。
親がチャイムを鳴らすわけないし こんな時間に人なんて来ないし
誰が来たの? 幸太の鼓動は激しく揺れた。
不安と緊張で身体は固まりただ玄関の方を見ているだけだった
「はっ!鍵!」
幸太はドアの鍵を掛けたか覚えていなかった。
普段幸太が学校とか遊びから帰ってきても鍵を掛けずに
そのまま部屋に行ったりリビングに行ったりとかで
母憲子から「ちゃんと鍵掛けてきた?」と言われ
しぶしぶ鍵を掛けに戻るのが日常茶飯事だった。
今更ながら憲子の言ったこと事を守れずにいたことに後悔していた。
「こんばんはー牧野さーん いますかー?」
玄関から声が聞えてきた
やっぱドアの鍵掛け忘れてたんだ
幸太の鼓動はさらに激しくなっていった。
「牧野さーん 警察ですけどいらっしゃいますかー?」
警察?
幸太はふっと警察ってなんだっけ?と頭を捻った
とりあえず警察と言う響きに悪い人ではないと認識して
すこし安堵した。そしてそのまま玄関の方へ歩いていった。
リビングから顔を出すと背広姿の男がドアを挟んで立っていた。
「おっ幸太君だね?僕は南署の刑事で矢部って言うんだ。
ほらこれが証拠だよ。」
矢部はそう言うと幸太に警察手帳を見せて安心させようとした。
幸太は恐る恐る矢部に近づき警察手帳を見た。
警察手帳を見ても幸太には何も分からないが同じ顔が
警察手帳にも貼ってあったので理解した。
「それで僕の後ろにいるのも矢部っていう刑事だよ」
後ろにいる矢部は幸太に近づき同じくして警察手帳を見せた
「兄弟じゃないからね」
後ろの矢部はそれだけ言ってまた前の矢部の後ろに戻った。
「それでね幸太君僕達が来たのはとても大事な話があるから来たんだ」
前の矢部は話をきりだした
「大事な話?」 幸太は首をかしげた
「うん 今お父さんとお母さんは家にいないだろ?」
「うん どこにいるか知ってるの?」
幸太は不安そうな顔で聞いた。
「うんとね今お母さんとお父さんは病院にいるんだ」
「病院?」 幸太は少し困惑してきた。
「そう病院 お母さんがね 事故に遭っちゃって少し病院に入院することに
なったんだよ。それでお父さんが病院にいるんだ。」
「お母さんが事故って何が遭ったの?病院って何処?」
幸太は混乱し始めて泣きながら前の矢部に聞いた。
「大丈夫だよ。ただ少し自転車とぶつかって腰を痛めたらしいから
痛みが治まるまで少し入院するだけって言ってたからすぐ退院できるよ」
前の矢部は幸太に不安を与えまいと嘘を言った。
「本当に?」
「本当だよ。お父さんももうすぐ帰ってくるからそれまで僕達が
幸太君を守る様にお父さんから指令を受けてきたんだ」
「僕を守る?」 幸太は少し意味がわからなかった
「幸太君一人で寂しいだろ?だから僕達が遊び相手になるってこと」
前の矢部は笑顔で答えた。
「TVゲームなら上手いよ」
後ろの矢部がボソッと言った。
「お母さんに会いたい…」
幸太は涙ぐんでしゃべった
二人の矢部は顔を見合わせて少し迷った
今憲子に会わせたら幸太は多分傷つくだろう
何者かに刃物で襲われ病院に運ばれたのだから
本来なら会わせてやりたい 前の矢部は携帯を取り出し
新木に連絡をした。