(物語)
「いや。。(カラターエフは賛成しまい。。」と、ちょっと考えてピエールは言いました。
「彼が賛成するとすれば、僕らの家庭生活だろうな。彼は全てに美徳と幸福と平安を見る事をひどく望んでいたからな。だから僕は、自慢して僕らの家庭を彼に見せてやったろうよ。さっき君は『別れ』と言ったね、君は信じられないかも知れんが、別れの後で僕は君に、何というか、特別の感情を覚えるんだよ。。」
「あら、またそんな。。」と、ナターシャは言いかけました。
「いや、そうじゃないんだよ、決して君を愛する事をやめた事はないよ。それにこれ以上愛せと言っても、それは出来ないよ、だってこれは特別の。。うん、そうだよ。。」
彼はお終いまで言いませんでした、見つめ合った2人の目が後を言ったからでした。
「蜜月だの、最良の幸福は新婚当時にあるのだと。反対よ、今が一番幸せだわ。貴方が留守にさえしなかったらよ。覚えてる❓あたし達が喧嘩した事❓いつも悪いのはあたしだったわ。いつもあたし。それに何を争ったのかーーあたし覚えていないのよ。」
「いつも理由は1つだよ。君のやきも。。」と、ピエールは笑いながら言いました。
「言わないで、我慢出来ないわ。」と、ナターシャは叫びました、途端に意地悪い光が彼女の目にきらりと光りました。
「貴方はあの女に会ったのね❓」ちょっと間を置いて、彼女は付け加えました。
「いや。。それに会ったとしても、わからなかったよ。」
2人はしばらく黙っていました。
「ねえ、知ってて❓貴方が書斎で話してらした時、あたしじっと貴方を見ておりましたのよ。」と、襲って来た雲を払いのけようと努めるようにナターシャは言い出しました。「本当、貴方とあの子(ピエールとナターシャの息子ペーチャ)は瓜二つね、あら、そろそろ行ってやらないと。。時間だわ。。心残るけど。。」
2人は数秒の間黙っていました。
それから急に同時に顔を向け合って、何やら喋り出しました。
「君は何を❓言ってごらん、言ってごらん。」
「いいえ、貴方がおっしゃって。あたしはただ、つまらない事ですから。」
ピエールは語り掛けた事を言いました、それはペテルブルグでの成功についての誇らしげな考察の続きでした。
この瞬間彼は、ロシアの全社会及び全世界に新しい方向を与える使命が、自分に与えられてたような気がしていたのでした。
「僕はただ、巨大な結果を生む思想は全てーー常に単純なものだと言う事を言いたかっただけだよ。背徳的な人々が手を組んで1つの力を作り上げているなら、良心的な人々がせねばならぬ事は、それと同じ事を除いては無い。これが僕の考えの全てなんだよ。実に明快だろう❓」
「ええ。。」
「で、君は何を言おうとしたんだね❓」
「つまらない事ですわ。」
「いいよ、言ってごらん。」
「何でも無いのよ、あたしはただペーチャの事を話したかっただけなの。今日、乳母が側へ来てあたしの手から抱き取ろうとすると、ペーチャったらくつくつ笑って、目をつぶって、あたしにすがりつくじゃ無いのーーきっと隠れたつもりなのね、可愛いったら無いの。あら泣いているわ。じゃ、後でね❗️」そう言い残して、彼女は部屋を出て行きました。
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(解説)
はい。ここでは、極めて家庭的なピエールが、『政府に物申す』事が大事、特に今の時代のように皇帝の信任を得ている人物が背徳的である場合に、それにNO❗️と言えるような組織を国が承認すべきことの重要性を切に考えている人ですね。
当時の社会は、このような発想は、相当な知識人でないと出来無かったと言うか考えもつかないものだったと思います。
明らかに、トルストイは自分がいろんな啓蒙書や政治的な書物を読み漁った結果の考えを、この部分のピエールに代弁させていると思います。
ピエールの言わんとする事は『政治的言論の自由』と『政治的結社の自由』で、近代国家ではこれらの人権は、最重要なものとして、必ず憲法に記載されているのですね。
これは歴史的経験から、巨大な国家組織が、一国民の人権(もっとも大事な命さえ)を蹂躙して来た歴史から認識された人権なのです。
トルストイ自身が、この権利こそ、国民にまず与えられるべきだと言う主張をここで(ピエールの言葉を通して)訴えている部分だと思います。
ピエール自身がこの後、実際に政治的結社を組織し、国政に対して意見するかどうか、は不明です。
成功すれば、それは近代ロシア国家を樹立させることになるでしょうが、失敗すれば投獄されシベリア送りか銃殺ですね。
しかし、兼ねてからトルストイは、『歴史というものは個人的意志によってのみつくられるものではなく、その方向性へ大きな流れというものが過去からまたその時の状況から作られればその方向性に流れて行く』に過ぎないものなのですね。
だから、ピエールがこの後どういう運命を辿って行くのか、それはわからんのだよ、という事だと思います。
おそらくこの事を受けた考察が『エピローグ・第二部』でなされるのだろうと想像しますが、私の投稿は『エピローグ・第一部』次の最終回で終わりとします。
ロシアが辿った運命はこの時代から180年も経過した現代から容易に遡る事が出来ると思います。