戦争と平和 エピローグ(14ー2)ニコーレンカ、ピエールの論破を憧れの眼差しで見る。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

「でも、どうしてそんな所へ話を持って行くんだ❓」と、ニコライは言いました。

「つまり、皆滅びてしまうと言う事さ。裁判では不法がまかり通り、軍隊には鞭とシゴキと辺境への追放があるのみだ。民衆は苦しめられ、文化は圧殺される。若い者、誠意ある者と見れば破滅させられる❗️誰もが、こんな事がこのまま上手く行く訳が無い、と見ている。全てが限度まで伸び切っている、必ず切れる。」と、ピエールは言いました。

(政府というものが存在して以来、人々は常に、どんな政府であろうと、その政府の行動に目を光らせてこうした批判を加えるものである。by(おそらく)トルストイ)

 

「僕はペテルブルグで1つだけ彼らに言ってやったのさ。」

「彼らとは❓」と、デニーソフは聞きました。

「フョードル公爵とその一党ですよ、啓蒙慈善の事業を競う。。これは無論良い事だ。目的は美しいし、何も言う事は無い。しかし現状において必要なのは別のものなんだ。」と、ピエールは言いました。

 

その時ニコライは、甥が居る事に気がつきました。

「どうしてこんな所に居るんだ❓」甥の前にツカツカと歩み寄ってニコライは言いました。

「何故❓いいじゃないか。」と、ピエールはニコライの手を押さえて言いました、そしてそのまま話を続けました。

「それで僕は彼らに言ったのさ。今、別の物が必要なのだ。この伸び切った弦が今にも切れようとしている現在ーー全体の破局を食い止める為に、出来るだけ多くの民衆を団結させる事こそ、必要なのだ。全ての元気な青年達が、そちらへ引き寄せられ、堕落してしまう、ある者は女に、ある者は虚栄や金に誘惑されーーそして彼らはそちらの陣営へ移って行く。君達や僕のような、自由と独立の人間は、完全に跡を絶ってしまうだろう。。だから僕は言うんだよ。結社の拡張を図れ、『スローガン』を慈善だけに限定せず、独立と行動を加えよ。」

 

ニコライは、甥をそのままにすると、腰を下ろしピエールの話を聞いていましたが、不満そうに顔を曇らせて言いました。

「で、その行動が何を目的とするんだ❓そして君達は政府に対してどう言う関係に立とうと言うのだ❓」

「そりゃこう言う事だよ、つまり補佐あする立場だな。もし政府が認めてくれるなら、結社は別に秘密である必要はないんだよ。これは政府に敵意を持つものではなく、真の保守主義者達の結社なんだよ。完全な意味の紳士達の結社だよ。我々はただ、プガチョフが僕や君の子供達を斬殺しに来襲したり、アラクチェーエフ が僕らを辺境の屯田兵に追放したりする事の無いように、全体の幸福と全体の安全というただ1つの目的を掲げて、結束して闘おうと言うんだよ。」

 

「なるほど。。でも秘密結社と言うからには、やはり政府に敵対する有害な団体で、悪い結果しか生み得ないよ。」

「どうして❓ではヨーロッパを救ったトゥーゲントブント、これは慈善結社だよ、愛だよ、助け合いだよ。これこそ、十字架の上でキリストが説いた事だよ。」

 

話の途中で部屋に入って来たナターシャは、嬉しそうに夫を見つめていました、彼女は彼の活気と感動のみなぎった姿を見守りながら、大きな喜びを覚えていました。

さらに喜びと感激に胸を震わせてピエールを見守っていたのは、皆に忘れられていた細い首の少年でした。

「君の考えているようなものとは、全然違うんだよ。ドイツのトゥーゲントブントとはそう言うもので、僕が提唱しているのはそれなんだ。」

「だが君、そのトゥーゲントブントとやらはドイツっぽどもにはよかろうが、わしはわからんな。。」と、デニーソフ の決めつけるような大声が聞こえました。

「全てが醜悪で卑劣だ、それはわしも同意する、トゥーゲントブントなんて者は分からんし、気に食わん。ブント(=反乱)なら、そりゃわかる❗️それならわしは君の仲間になるよ❗️」と、ニコライが言いました。

 

ピエールは苦笑し、ナターシャも笑い出しましたが、ニコライは益々眉を寄せて、彼の言うような一切の危惧は彼の妄想に過ぎぬ事を、ピエールに説き始めました。

ピエールはそれに反論しました、そして、ピエールの知力の方が強く、そして柔軟だったので、ニコライは自分が袋小路に立たされた事を感じました。

ニコライはイライラしました、何故なら、彼は理屈によってでは無く、理屈よりも強い何者かによって、自分の意見が疑いも無く正しいものである事を知っていたからでした。

 

一同が夜食の席へ移ろうとして立ち上がった時、ニコーレンカ・ボルコンスキーは青ざめた顔に目をきらきら輝かせて、ピエールの側へ行きました。

「ピエールおじさん、もしパパが生きていたら、パパならきっと貴方に同意したでしょうね❓」と、彼は尋ねました。

ピエールはふいに、今の話の間、この少年の中で、計り知れぬ程の独自の、誰の力も借りぬ、複雑で強烈な感情と思想の作業が行われたに違いない事を悟りました、そして自分が語った事をすっかり思い返して、この少年に聞かせた事が腹立たしくなりました。

しかし、少年に返事をしてやらねばなりませんでした。

「そうだろうな」と彼は笑みの無い返事をして、書斎を出て行きました。

 

少年はうつむきました、そしてデスクの上で自分がしてしまった不始末(封蝋と羽をちぎりながら彼は話を聞いていた)に気づき、叔父に謝るのでした。

ニコライは腹立たしげに嘆息しました。

「いいよ、いいよ」と、封蝋と羽の屑をデスクから払い落としながら彼は腹立たしげに言いました。

そして、胸に突き上げて来る怒りをやっと抑えながら「だいたい。。君はこんな所へ来ちゃいけなかったんだよ。」と言い、少年から顔を背けるのでした。

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(解説)

そこで、ピエールは、皇帝の信任を得ているマグニツキー、アラクチェーエフ の執政に対し監視の目を光らせるべきだ、と言います。

これは非常に近代的な考えで、19世紀の帝政ロシア時代では到底発想し得ない考えだったようです(現代では当然の理論)。

これはもちろんトルストイ自身の考えをピエールの言葉に乗っけて言わせていると思います。

ピエールは政府を監視するための結社を作ろうとしているのですね。

 

しかし、ニコライは、それが秘密結社と言うからには、やはり政府に敵対する有害な団体で、悪い結果しか生み得ないと反論します。

しかし、ピエールの方が知力が優れ(そういう勉強ばかりしている人ですね)柔軟だったので、ニコライはピエールに論破されてしまいます。

しかし、ニコライには『実地の経験』というものがあるのですね、だから、どうしても彼はピエールの言う秘密結社は理想論の域を超えないものだ。。と心中穏やかではありません。

 

一同が議論を終えて夜食の席へ移ろうとして立ち上がった時、ニコーレンカ・ボルコンスキーが尊敬するピエールの前に出てきて、ピエールの意見にはきっと自分の父も賛成しただろう。。と言います。

ま。この点についてはどうかな❓とは個人的に思いますけれどね。

ピエールは15歳の感受性豊かな少年に、今の議論が聞かれたことに戸惑いを覚えます。

そうですね、ピエールは自分が犠牲になって結社の中心人物として政府の上層部に物申す。。と言うのでしたら、大ぴらに自分の意見は正しい、と思うでしょうが、この少年にそんな危険(❓)な思考を促していたみたいな気がして『ああ。。ああ言う過激な意見をこの少年の前で言うのではなかったな。。』と思ったのではないかな、と想像しています。

(※ちょうど同じ年頃のペーチャが『愛国心ある者は国の為に勇敢に戦うべきだ』と言う当時の風潮に流されて命を落としてしまった事件が心を過ぎったと思いますね。)

 

ニコーレンカはその時、自分が叔父の机の上の封蝋やペンの羽根をむしり取った事に気がついてニコライに謝ります。

ニコライも、『今のがこの子に聞かれてちょっとまずかったな。。』と思ったようですね、彼は不機嫌に「だいたい。。君はこんな所へ来ちゃいけなかったんだよ。」と言うのでした。

(※ニコライは、いまだに16歳のペーチャの死が昨日の事のように思い出されて、こんな犠牲者が出るのはもうたくさんだ、って思っているのですね、きっと。)