戦争と平和 第4巻・第4部(6)クトゥーゾフ、総司令官として、そして人間として兵士達に告げる。 | 気ままな日常を綴っています。

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(物語)

11月5日は、クラースノエは戦闘の最初の日でした。

日暮れ近くになって、命令で示された地点に兵を進めなかった手違いや口論が一段落し、敵は至るところで潰走し、戦闘はまずあるまい。。と明らかになって、クトゥーゾフはクラースノエを出て、その日総司令部が移されたドーブロエに向かいました。

道筋には至る所焚火が燃え、今日捉えられたフランス軍の捕虜達が焚火に当たっていました(今日の捕虜は7千名でした)。

ドーブロエの近くの路上に、おびただしい捕虜の群れが固まってガヤガヤうるさく話し合っていました。

総司令官が近づくと話し声が止み、路上に進んでくるクトゥーゾフの姿に、全ての目が注がれました。

将軍の1人が、大砲と捕虜がどこで捕獲されたか、をクトゥーゾフに報告しました。

 

彼は将軍に言葉が耳に入らなかったらしく、惨めそうな捕虜達の姿を注意深くじっと見つめていました。

ほとんどのフランス兵達の顔は、鼻と頬を凍傷に侵され、目が腫れて赤くただれていました。

クトゥーゾフは、生肉を裂く作業を続けている腫れ物だらけのフランス兵の、毒々しい、恐ろしい動物的な表情を見て、憂(うれ)わしげに頭を振りました。

されに先へ行くと彼は、ロシア兵が笑いながらフランス兵の肩を叩いて、優しく何やら言葉をかけているのを見ました。

クトゥーゾフは、また同じ表情で頭を振りました。

 

「何かな❓」と、彼は報告を続けている将軍をかえりみました。

その将軍は、プレジオブラジェンスキイ連隊の前に立ててある、分捕ったフランスの軍旗に総司令官の注意を向けさせようとしていました。

「あ、軍旗か❗️」と、心を奪われていた対象をやっと振り切ったように、クトゥーゾフ は言いました。

彼はぼんやり辺りを見回しました、周り中から数千の目が、彼の言葉を期待しながら、彼に注がれていました。

 

プレジオブラジェンスキイ連隊の前に馬を止めると、彼は重い溜息をついて、目を閉じました。

幕僚の誰かが手を振って、軍旗を捧げている兵士達に、前に進み出て総司令官の周りに軍旗を立てるように指示しました。

クトゥーゾフ はしばらく沈黙していました、そして気は進まないけれども、自分の立場の要求に従うように、口を開きました。

「諸君に感謝する❗️ありがとう、みんなよく困難な任務を忠実に果たしてくれた。完全な勝利であり、ロシアは諸君を忘れぬであろう。諸君の上に不滅の栄誉が輝くであろう❗️」

「ウラ、ラ、ラー❗️」と、数千の声が響き渡りました。

 

兵士達が叫んでいる間、クトゥーゾフ は鞍の上で背を丸め、頭を垂れていました、そしてその隻眼(せきがん)に柔和な嘲るような色が、きらりと光りました。

「さて。。諸君」と、叫び声が鎮まるのを待って、彼は言いました。

すると、ふいにその声と顔の表情が変わりました。。それは総司令官が語っているのではなく、ごく普通の老人が、何かひどく大切な事を仲間達に伝えようとして、語り出したかに見えました。

士官達の輪と、兵士達の列の中に、彼がこれから語ろうとする事を、よく聞こうとする動きが起こりました。

 

「さて諸君。諸君が辛い事は、わしも知っておるが、どうしようもない❗️辛抱してくれたまえ、もう長い事ではない。客を送り出したら一息つこうではないか。諸君の忠誠に対して、皇帝は諸君をお忘れになるまい。。だが、それでも諸君は自分の国に居るのだ。。ところが。。見たまえ、どんなザマになってしまったか」と、捕虜達を指差しながら、彼は言いました。

「最低の乞食以下だ。彼らが強かった間は、我々は容赦しなかったが、今は憐れんでやるのも悪い事ではない。彼らだて人間なのだ、そうだな❓諸君。」

彼は周りを見回しました、そしてしっかりと彼に向けられている、うやうやしく怪訝そうな目の中に、自分の言葉への共感を読み取りました。

そして編鞭を一振りすると、彼は戦争の全期を通じて初めて駆歩で馬を飛ばし、どっと歓声を上げ絶叫する兵士達の群れから離れて行きました。

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(解説)

ここは非常にわかりやすい部分で特に言う事は有りません。

彼は不必要な攻撃をフランス軍に仕掛けて捕獲した軍旗や大砲や捕虜達を見て、『一応は』自分の任務にふさわしい兵士達への労いの言葉を掛けます。

軍の士気を沈めない事も彼の大事な仕事だからです。

 

しかし彼は「でもね。。みんな、聞いてくれよ」と言うように続けて『彼がもっと訴えたかった事』を兵士達に言います。

「こんなに惨めになったフランス軍を見てみなさい。彼らは自分達のやった事に対して、こう言う結果を天から下されているのですよ。だからね、もう私達が成敗する必要はないんだよ。彼らだって、犠牲者なんだ、だって、こう言う風に行動せざるを得なかった人間達なのだから。同じ人間だ。彼らの苦しさは十分に理解できるだろう❓だったら、慈悲の心で、彼らに接して欲しい。。出来るだけ。。それがロシア人の誇りって言うもんだよ。わかってるね❗️」と。