(物語)
輸送隊、捕虜、元帥の荷馬車の1行はシャムシェヴォ村に野営しました。
みんな焚火の周りに集まりました、ピエールは焚火の側に寄り、焼いた馬肉を食べ、焚火に背を向けてごろりと横になると、直ぐに眠りに落ちました。
それは、ボロジノ会戦の後にモジャイスクで経験したあの眠りと同じものでした。
またしても現実の出来事と夢が溶け合い、また誰かが、彼自身なのか、誰か他の人間なのか、彼に様々な思想を語りかけました。
しかも、それはモジャイスクで語りかけられたのと同じ思想でした。
『生命が全てだ。生命が神なのだ。全てが混じり合って動いている。そして、この動きが神なのだ。生命の有る限り、神を意識する喜びがある。もっとも困難な、そして幸福な事は、自分の苦しみの中でこの生命を愛する事だ、罪なき苦しみの中で』
日の出前に、彼は激しい銃声と叫び声に夢を破られました。
ピエールの側をフランス兵達が走り抜けて行きました。
「コサックだ❗️」と、彼らの1人が叫びました。
そして1分後にロシア人の頭がピエールを取り巻きました。
長い事ピエールは、自分の身に何が怒ったのか、理解する事が出来ませんでした。
彼は周り中に、仲間達の嬉し泣きに泣きじゃくる声を聞きました。
「おお❗️兄弟達❗️よく来てくれた、ありがとう❗️」年寄りの兵士達が、泣きながらコサックや軽騎兵を抱きしめて、叫びました。
軽騎兵やコサック達は捕虜の群れを取り巻いて、急いで思い思いに、ある者は服を、ある者は靴を、ある者はパンを差し出しました。
ピエールはその真ん中にぺたりと座って、わあわあ泣いていました、そして一言も言う事が出来ませんでした。
彼は、最初に側に来た兵士に抱きすがって、泣きながら接吻しました。
ドーロホフは破壊された屋敷の門際に立って、武装解除されたフランス兵の群れを通していました。
フランス兵達は目まぐるしい出来事に気が立って、大声で話し合っていました。
しかし、冷ややかな、ガラスのように無表情な、良い事など何も約束するものか、と言う目でじっと睨んでいるドーロホフの前に来ると、彼らの話し声はピタリと止むのでした。
その向かい側に、ドーロホフ隊のコサックが立って、(フランス兵の)捕虜の人数を数えながら、100人毎に白墨で門に印を付けていました。
「何人になった❓」と、ドーロホフは人数を数えているコサックに聞きました。
「もうじき200人です。」と、コサックは答えました。
「通れ、通れ」と、フランス兵から聞き覚えた言葉を使って、ドーロホフは言って、そして前を通る捕虜と目が合うと、彼の目は残忍な光を放って燃え上がるのでした。
一方デニーソフ は、庭に掘った穴の所へペーチャ・ロストフの死体を運んで行くコサック達の後ろから、帽子を手に持ち暗い顔をして歩いて行くのでした。。
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(解説)
カラターエフが亡くなった夜、疲れていたピエールは焚火にあたりながら直ぐに眠りにつきます。
もう死を恐れないまでに生き抜いたカラターエフの最後は、ピエールに『生きる事とは』の命題を反芻させます。
生命の動きは全て神の意思によるものである、そして神の存在を意識することが喜びであり幸福なのである、最も苦しい時こそ神の存在を意識できればそれが最も幸福な事なのだ。。そんなセリフがピエールの朦朧とした頭の中を駆け巡ります。
日の出前に、ピエールは激しい銃声と叫び声に夢を破られます。
どうやらドーロホフ・デニーソフ 隊がロシア人捕虜達を解放しに来てくれたのですね。
ピエールは今までの緊張の糸が一気にほぐれ地面にペタンを座り込んでわあわあ泣きます。
嬉し泣きですね。
そして、自分が生き抜いたのだ、という感動でもあるかもしれません。
カラターエフはあと1日で間に合いませんでしたが、でも、カラターエフにしてみれば『それが神の意思であり、神の元に行けたのだから』それで良し❗️なのでしょうね。
ドーロホフは(捕虜は取らないとは言っていたものの、捕虜を取らないといけない状況だったのでしょうね)、コサックに捉えた捕虜の数を数えさせ、絶対に甘くは無いぞ❗️という睨みを利かせて門の前で仁王立ちしています。
ドーロホフは、一見残忍に見えますが、見方を変えれば、彼は戦争仕掛け人ではありませんし、彼のこの世の使命が『戦争をとにかく片付ける』人だったのかもしれませんね、そのように思います。
彼の冷酷無比な表情の裏側には、『優しさ・慈悲』があるのですよね、彼もまた神の子なのだと思います。
一方、デニーソフ は、勇敢な戦士ではありますが、この人は情にもろい人なのですね。
この人が出世コースから外れてしまった理由も『部下に糧秣を与える為に、不法行為ではあるものの別の部署の糧秣を分捕った』でしたから。。(➡︎ここが『ロストフの血』を愛した所以でもありますね、ペーチャと同じ優しさを持っている人です。)
彼は、温かいロストフの血が流れる前途が有望だったペーチャを葬って上げるのですね。
そして、ピエールも、彼は、自分が富豪の貴族であるという事に甘えずに常に自己探求して来た人です。
貴族としては稀有な経験をした(させられた)彼は、人間として大きく成長しました。
そして何よりも、ピエールがモスクワに生還する事が出来た、その事に意義があるように思います。